いろんな人から観ろと言われ続けた映画を観た-その2


『SAW』とこの『Vフォー・ヴェンデッタ』はかなりいろんな人から観ろ観ろと言われ続けた映画で、基本的にそういう映画というのは観た後に後悔してしまって、あまり良い印象がないのだが、この『Vフォー・ヴェンデッタ』はなかなか良かった。

北朝鮮の問題や理想国家の在り方、一体革命の何が正しくて、暴力を使わなければ革命は起こせないのか?という思想。さらにこれに血なまぐさい復讐を1本筋にした事が素晴しい。2時間20分の間に言いたい事が言い切れてる事に感動した。様々な解釈が可能なように作られているし、言葉の選び方もかなりこだわっている。なによりも確信犯的に賛否両論を狙った演出(ナタリーポートマンの問いかけなど)がズバズバとキマっていた。時間の使い方に無駄がなく。娯楽作としてはかなり出来はいい方だろう。

この作品はすべて計算され尽くされた作品だったが、ただ、そうすんなり手放しに絶賛出来ない部分もあった。まず、敵とされてる国家の姿があまり見えにくかった事。元々はアメコミだったらしいが、全体主義だとか、同性愛者が逮捕されるとか、独裁的な政治とか、いわゆるナチス北朝鮮を下敷きにしてるわけなのだが、一体どんな政治で国が動いていて、国民が革命を望んでいるかのような荒んだ背景をもうちょっとしっかりと見せて欲しかった。

世界観が製作した側で完成されすぎてて、こちら側に全部伝わりきれてない。同じスタッフの『マトリックス』だったら膨大なディテールがあったとしても敵の姿は明らかだったし、どうして人類が立ち向かって行くのかに説得力があった。ただ、この作品の敵の“大きさ”は分かっても、それが倒すに値するものなのかという部分があまり見えない。

後半その謎は“復讐”という部分で補っていて、だからこそVという男は政治家をみな殺しにしていくのだが、その“復讐”の部分が出て来ても、個々の裏の顔や、国がどのように国民を抑圧して来たのかという部分が不透明。ちらっとモンタージュで差し込んだりしてるのだが、全体像があまり見えず。ラストのシーンへのカタルシスに繋がらないというのが本音。シェイクスピアという古典を下敷きにしているのにも関わらず、敵が「こんだけヒドいヤツなんだ」と思わせるための線引きが曖昧で、もっと極悪非道な演出を散りばめると良かった気もした。一番偉いとされる議長だって、TVのモニターからほとんど出ないし(笑)

復讐劇が好きなので、そういう部分が引っかかったが、ただ2時間20分は意外とあっという間だった。血が飛び散るアクションはアナログとデジタルの良い所を合体させてあったし、何よりも映像がスタイリッシュすぎない所がいい。ナタリーポートマンは『レオン』以来の当たり役だったし、エンドクレジットで流れるストーンズの『ストリートファイティングマン』も完璧。暇つぶしで観るにはヒネりすぎてるが、普通の映画に嫌気が差してる方。オススメです!