パンを喰えなきゃ、菓子を喰え!
ヴェルサイユ宮殿のロケを活かした映像、凝った美術と衣装、個性的なキャスティング、その違和感が心地良い選曲と独特の手腕でマリー・アントワネットを描くソフィア・コッポラ監督の秀作。無駄なシーンも多いし、若干テンポに難はあるが、ガラスのように繊細でポップな映画に仕上がった。
言葉に出来ない想いや内に何かを秘めた表情を撮らすと右に出る物はいないソフィア・コッポラだが、その手腕を今作でも若干ながら発揮、監督が思うマリーアントワネット像をおもしろおかしく繊細に描いていく。一人称でほとんどベルサイユ宮殿内の話にしたのも正解。今の今まで伝わってるマリーアントワネット像はほとんど素通りし、フランスに嫁いで来たオーストリアの女の子の話にスポットを当て、重苦しい雰囲気ではなく、軽いタッチで終始進んで行く。
さて、この作品、無駄なシーンをさらに間延びさせてる感があり、テンポが急落してしまう部分が多々あった。無駄なシーンを楽しいと感じさせないと、ホントに無駄になってしまう。音楽にのせて素早いカット割りで魅せる部分が小気味いいだけに、全体のリズムがちょい緩い。王室のしきたりみたいな物を説明する前半から中盤くらいまではなんの違和感もなく見れたが、もう1つの家を建ててからの後半が辛かった。やはり2時間以内で観たかったというが本音。
そして、この作品にはどういうストーリーなのか?という明確な1本線がない。逆に言えばそれはこの作品の魅力とも言える。つまりマリーアントワネットは政略的な結婚で14歳にフランスに来た。心躍るような毎日を想像してたが、実際は頭の痛くなる様なしきたりと、同じ事の繰り返す毎日、さらに早く子供を産まなければいけないプレッシャーを抱えていた。そこにある孤独や不安を掘り下げず行動だけで監督は描いている。これは『レザボア・ドッグス』と一緒で好き嫌いに別れる部分だろうが、マリーアントワネットという人物の歴史をみんなが知ってるという憶測の上でやっている演出に感じてしまった。『ロスト・イン・トランスレーション』で見せた、あの繊細な演出がそのせいに鳴りを潜めてしまっている。もっと、もっとあの繊細な描写を見せてくれれば、この映画は間違いなく成功していただろう。ある種「自分の居た世界とは違う世界に行く事への不安」というテーマは前作と同じなわけで、さらに夫への不満から他の伯爵と不倫関係に堕ちるというのも共通している(これは史実なのでネタバレではない)だから、かえって、低予算で作られた前作の方が上に感じてしまった。
さらに不満がもう1つ、それはキルスティン・ダンスト。これミスキャストだろ?「まぁキレイねぇ」みたいなセリフがあるが、全然キレイじゃない(笑)だから、マリーアントワネットというキャラにまったく説得力がない。逆に言えば、王の愛人を演じたアーシア・アルジェントの方が説得力がある。悪女っぽいし(笑)
高価な物を使ってるわりに映像はかなりウエルメイドで胸焼けせず、すっきりと仕上がってる。あまり静止画を使ってないのは『バリーリンドン』に似すぎてしまうからだろうか。手持ちカメラを多用し、へんちくりんな構図まで飛び出し、ヘタうまなカメラワークを見せる。お菓子や宝石のカットをふんだんに差し込む当たりは女性監督ならではのセンス。ここは単なるコスプレ物とは違う部分だろう、狙ってダラダラさせてる映画をジャンプカットやロックまで駆使して、テンポよくしているのはさすがソフィアコッポラと言ったところか。
嫌いではないが、個人的には傑作印はやはり押せない。ソフィアコッポラは好きな監督だが、もっとスッキリとまとめられる気もした。