蟲師


スチーム・ボーイ』という完成するかしないのかわからない悪夢の様な大作を経て、大友克洋が次に選んだのは実写、さらに『蟲師』というマンガの映像化である。まず感想だけ言うと映画に流れるリズムは好きなのだが、要らないというか、長い部分がある。

この『蟲師』たしかに映像はさすが大友克洋と言ったところだ。『スチームボーイ』のように感動とは違う感動。唯一無二。漫画家、アニメ出身なのに、自然の映像をひたすら追い求め「どうやって探し当てたんだ?」という言葉が素直に出た自然の映像はかつて登山を趣味としていた私を驚かせる物ばかり、1本の木から雪の積もり具合までこだわりにこだわりぬいたロケハンは金も時間もかかっただろうが、絶大な効果を挙げている。あまりに出てくる人間の物がぜんぶキレイでもうちょっと汚してほしかったが、小道具の作り込みや衣装も素晴しく、蟲師が終始持ち歩いている小さなタンスのような物はおもしろかった。

そして、音に対するこだわりも尋常じゃない。効果音を拡張した和物の音色はその自然の映像と蟲師という不可思議な世界にマッチし、静かな世界を作り出している。自然の音もよくこれだけのものを集めたと感心せざるをえないし、姿形にインパクトがない蟲の存在を音で補った演出は正解。静かな映画だが、音の存在感は抜群である。

CGを使った“蟲”の映像だが、『スチームボーイ』や『AKIRA』を観て来た者にとってはさほどではない。やはり大友克洋という人はごちゃごちゃしたディテールのSFめいたものが得意なのであって、不得意なものもあると言う事だ、監督はやってみたかった世界観かもしれないが、おどろおどろしいわけでもないし、映画的でもない、冒頭の土砂崩れには度肝抜かれたが、それ以外のCGは意外とあっさりしてたなという印象がある。

さて、微妙と書いたが、この『蟲師』。単純にまず脚本が悪い。個々のエピソードや回想で物語を構成するのはいいが、これぞ!という見せ場が1つもなく、ダラダラしている。見せ場がない映画も多々あるが、蟲師という題材なわけだから、ある程度は映画的な事をしなければいけない。映像を見る限りでは電気がないという時代なのに、夜のシーンでは明るく、全体的にリアリズムとは遠い作品だ。たしかにこれで見せ場があったら、『鬼太郎』や『どろろ』になってしまうが、蟲師という世界観である以上、起伏、緩急、を考え、もっとエンターテイメントにしてほしかった。映像で見せきるタイプの作品のわりに圧倒的なビジュアルがてんこ盛りというわけでもなく、ただ単純に長く感じてしまったシーンもあった。設定は抜群で、蟲と蟲師、さらに小道具の1つ1つがおもしろいが、これは大友克洋というよりも原作者のアイデアなわけであって、これは実写化する必要があまりなかったのではないかとも思った。

さらにセリフだが、字にすればいいものの、喋らせると違和感があるものばかりで、役者達もかなり困ってるのは画面から伝わってくる。しかもそれが説明的なセリフなのだから、なおさら違和感を感じた。オダギリジョー蒼井優もヘタクソに感じてしまったほど、セリフの作り方がどヘタクソである。時代設定もそうなのだが、現代の喋り方と昔の喋り方がごっちゃになっていて、セリフがあるシーンは全部が違和感を感じてしまった。

そんな演出の被害を一番被ったのが、江角マキコ。もうひどい!ひどすぎる!こんなヘタクソなヤツが『蟲師』の何%かを占めてると思うとまさに蟲酸が走る(笑)その江角と絡む子供もひどすぎて、この2人のシーンはまともに観てられなかった。学生の舞台か!

そんな中で一番すごかったのが大森南朋。みんなセリフに負けてる中で、唯一役者として勝利したのが彼だ。まったくあのセリフを違和感無くこなし、これぞ!役者の仕事だ!という手本を示している。彼はホントに素晴しかった。

まぁ負の要素が強かったが、別に「観なければよかった!」という感じではなかった。ラストマジでわけわかんねーけど、あの原作をどうしたかったんだよ!ともっとわけわかんなかった『どろろ』に比べれば好き。