マタンゴ

マタンゴ [DVD]

マタンゴ [DVD]

職業がまったく違う7人を乗せたヨットが嵐に遭い、無人島に漂着、人はおろか生き物もまったく居ないこの島にあるのは大量に生えたキノコ。錆び付いた船を見つけ、そこで過ごす事になった7人だが、そこに置いてある研究ノートからそのキノコは「マタンゴ」と命名される。このキノコを食べると麻薬みたいに神経がイカれると書かれており、それ以外の食料を探す7人、だが次第にやってくる飢餓により…

本多猪四郎監督が放つ異色ホラー作品にして、未だにカルト作の1本として名高い作品。『マタンゴ』というタイトルとは裏腹に手堅い演出とそのメッセージ性は今見てもまったく見劣りしない物となっている。63年の作品だが、特撮や美術がよく出来ており、まったく古くささを感じさせないのも特徴的。リアルなマタンゴの造形や、特殊メイクも含め、職人の腕が冴え渡る一品となった。

マタンゴ』は“無人島に流れ着く” “そこで人間同士がいがみ合う” “島に得体のしれない何かがある”というベタなクリシェの組み合わせで出来た作品で、そこから行くとなんの新鮮さもないが、実はそのクリシェを組み合わせ、おもしろさと怖さを2倍にも3倍にも膨れ上がらせるという、映画ならではのおもしろさに満ちた作品になっている。無人島に座礁した船の中というある種、密室を舞台にした恐怖、そこで生き延びるための人間のエゴが全開になった時の恐怖、そしてマタンゴという意味がわからない物の恐怖、この異なる恐怖+何が起こるか分からない展開があるためにサスペンス性もかなり高い。

無人島に流れ着く人を7人と限定し、さらにその職業も社長、その部下、作家、歌手、大学助教授、心理学を専攻する学生、スキッパーと様々な分野の人にしたのもよかった。社長やバイトのスキッパーなどの格差はこの状況において、まったく意味をなさないし、心理学を専攻していても、実際自分がその状況を体験しないと単なる絵空事になる。マタンゴという物を使いながらも演出は骨太で基本的に極限状態に陥った時の人間の怖さを描いている事が最大の魅力で、ここにウエイトをかけたのも間違ってない。暑い描写と雨が降ってジメジメした感じの描写を分けたのも正解で、音の使い方も上手く、ボロボロの船の造形やマタンゴも含め、ありとあらゆる所でプロの仕事が堪能出来る事必至だ。

あっと驚く展開と、考えさせられるラストも含め、非常によく出来たSFホラー作品。とても妖しく、とても艶かしく、とても怖い。本多猪四郎の手堅い演出に酔いしれよう。