すげぇぞ!『ゾディアック』!


のっけから言わせてもらうとマジに傑作。しかもその傑作具合が絶対に人に伝わらないタイプの作品だと言っていいだろう。デヴィッド・フィンチャーの最高傑作と銘打って宣伝されたが、個人的には『セブン』や『ファイトクラブ』を越えてない、だが、それに並ぶ作品である。本当に細部まで行き届いた映像と演出、これ1本でゾディアック事件はすべてわかるだろうという情報量、デビットフィンチャーの映画は2〜3回観て楽しめるものが多いが、『ゾディアック』も間違いなく何度も観れるタイプの作品。そして、何度観ても楽しめ、何度観ても感動するんじゃないだろうか?

デヴィッド・フィンチャーで殺人事件と言えば、誰しもあの『セブン』を連想するわけで、そのアプローチで映画は撮れない。ガイ・リッチーの様に似たテイストで突っ走ってもいいが、毎回カメラも映像のトーンも作風も変わるフィンチャー監督は『セブン』とはまったく違うタッチで犯罪映画を撮った。しかも実話を元にした映画である。

ゾディアック事件とは69年から74年にアメリカ起きた連続殺人事件。5人を殺し、その犯行を自ら警察やマスコミに知らせ、さらに送った手紙には暗号も同封されていた。多数の容疑者が挙がるが、未だに事件は解決していない。

この事件に魅せられた男が書いた原作を元にフィンチャー監督は見事な画面構築と完璧な構成で上質の映画に仕上げた。大凡フィンチャーが撮ったとは思えないくらい地味な映像だが、プロ仕様の絵作り。色彩から、小道具、カットバックから、オーバーラップまで完璧な使い方。もちろんフィンチャーならではのスタイリッシュな演出も所々に登場し、古い時代を新しい感覚で映す事に成功している。

時間経過も字幕で出して、時間軸はぶれずに真っすぐ進むし、なによりもうまいのが、『それから3日後』とか『それから2週間後』とか、出すのが細かい。何年の何月何日だけだと、どれくらい経ったかわからないけど、細かく出す事で、「だから、この2人は結婚してるんだぁ」とか、憶測出来る。

こういうのが上手い演出で観客をバカにしてない。んで、ある程度事件の概要が出たら、その後の経過は警察と新聞社のカットバックで一気に説明する。ここもかなりうまい。ここまで演出を簡略化しても2時間半以上かかる。という事はこの映画はこの時間がいる映画だということだ。

さらに一日の流れを早回しにしたり、固定カメラのオーバーラップで仕事の流れを表現したり、上手い。新聞記事と映像を融合させたのも奇を衒ってるんじゃなくて、映画において必要な演出。

夜のシーンや夕暮れのシーン、雨の降らせかたも妙にリアルで、「本当の事件の時も、このタイミングで降ったんじゃないか?」っていうくらいリアル。

『ゾディアック』は2部構成で出来ている。人物はたしかに個々で登場してくるが、前半は事件を追う刑事、後半は事件を諦めた刑事と手を組んで捜査する新聞社の男。この視点で話が進む。だが、『ゾディアック』は「ゾディアック事件とはどういう物だったのか?」というものに焦点があり、それにかかわった人が右往左往してる様子を克明に描いている。『ゾディアック』の主役は“事件そのもの”であり、それは映画のストーリーなので、最近の映画にしては珍しく、ストーリーで作品を見せきるタイプの物になっているのだ。だから3時間近くあってもまったく飽きないし、その都度視点が変わってもまったくブレない。さらにその時間が絶対に必要な映画でもある。

事件そのものに取り憑かれて行くというところは『殺人の追憶』を連想させるが、『ゾディアック』は至ってクール。『殺人の追憶』ほどの暑さ(あえて、この漢字を使うが)がない。簡単に言うと「犯人を絶対に捕まえてやるんだ」という執念がない。そこで好き嫌いに別れそうでもあるが、『ゾディアック』が描きたいのはそういう部分ではない。だからラストがどうであれ、私は『ゾディアック』を買う。


はぁ、これネタバレしないで書くの大変なんすよ(笑)