アヒルと鴨のコインロッカー
本年度ベスト1候補の作品にして、すべてが完璧に機能した珍しい良作。若干破綻してる部分もあるが、映画でしか出来ない作り方や構成に感動し、昨今の出来の悪い映画達に比べれば、挑戦的であり、野心があり、何かを叩き付けてやろうという力を感じる。
『アヒルと鴨のコインロッカー』は珍しく何のしがらみも感じない映画だ。おもしろい話しにしようという脚本があり、この役にはこいつしかいないというキャスティングがあり、ボブ・ディランしかないという音楽があり、観てるこちら側を驚かせるための編集があり、まったく奇を衒わない撮影がある。普通映画というのは金を稼ぐための物であったり、カッコいい映像を散りばめてやるぜという部分から出発するが、『アヒルと鴨のコインロッカー』はそういったやらしさがいっさいない。
狭苦しいアパートでの的確なカット割り、閉鎖的な街を見事に映すクレーン、それ以外はなんの変哲もない映像だ。なのにもかかわらず、すべてのシーンが目に焼き付いており、この物語にグッと引き込まれる。瑛太をはじめとしたキャストも100満点の演技や存在感を見せ、ひねりにひねった物語にまったく喰われる事なく、映画を紡ぎあげていく。
『アヒルと鴨のコインロッカー』はホントにストーリーがまったく話せないタイプの作品で、それがとても悔しいが、単純にこの映画はサム・ペキンパーとジム・ジャームッシュを足して、ボブ・ディランで味付けした様な作品なのである。映画ファンならこれだけで傑作と分かっていただけるだろう。
この世の中には死んだ方がいいカスどもが山ほどいる、そしてそんなカスは殺してもかまわないという思想からして見事。もう何も言わん。必見。