題名のない子守唄


11時30分より『題名のない子守唄』鑑賞。トルナトーレの新作だという事を最近知り、さらにマイミクさんにミクシィやってるヒマあったら観に行け!と言われたので観た。

これが…すんばらしい!!!!!傑作!

ジュゼッペ・トルナトーレは『ニューシネマパラダイス』と『マレーナ』しか観てなくて、『海の上のピアニスト』ですら観たくても、触手が伸びないという体たらくっぷり、ただ、『ニューシネマパラダイス』と『マレーナ』は個人的に大好きな映画で、特に『マレーナ』で見せたモニカベルッチのリンチシーンは、どの映画の暴力シーンよりも強烈だった。結構感動作を撮ると思われがちな巨匠だが、今回撮りあげたのは、暴力とアブノーマルなセックスにまみれたミステリーである。

トルナトーレとモリコーネが組み、それがミステリーと聞くとどんな映画になるか予想出来ないだろうが、まさしくその通り、まったく先が見えないストーリーテリングに息を飲む。冒頭、素っ裸の女(モザイク無し)が出てきた時点で、この映画に映画的な演出は一切ないなと確信。過去と現在が見事な編集で交錯し、説明的なセリフや演出は皆無。緩やかに流れるカメラワークは乾いた街を見事に捉え、主人公の心情とシンクロするように冷たく映る。主人公は一体何の目的で動いてるのか皆目見当もつかないのだが、その行動1つ1つに注目してしまい、なんて事ないシーンでも、手に汗握る事必至。モリコーネの音楽もその演出を援護射撃するかのように、優雅に流れ、類い稀なる相乗効果を生んでいる。

今回もキャストは完璧。人のいい家政婦とアバズレの顔を見事に演じ分けた主役もさることながら、子役があいかわらずの完璧さで、どうやって探してくるのだろうとホントに感心する。

それにしても演出がホントにすごい。セックスシーンは飛び切り生々しく、バイオレンスシーンはゾンビ映画が大好きな私でも思わず目を背けたくなるほどのリアルさ、あそこまで徹底して演出する事が出来るのは怖いくらいである。その分、すごく映画はリアルになったけれども。

『題名のない子守唄』はまったく説明的なセリフもないし、主人公の狙いやら動機など最後の最後まで明らかにされないから、置いてけぼりを喰うかもしれない。オリジナリティ溢れる作品と言われてるがこれはダルデンヌ兄弟の『息子のまなざし』に似てる。『題名のない子守唄』は『息子のまなざし』のように一体主人公は何をしてるのかが分からない。そしてラストにすべて明かされるという点もほぼ一緒。生々しいカメラワークや説明的なセリフがない点も一致する。実はストーリーの途中でなんとなく展開は読めるのだが、さらにそのうえにもうひとネタ加えてるのが見事。

最近はちゃらちゃらしたMTVだとかCM出身の監督が多く、イタリア映画もそういう方向になってきてたが、久しぶりに古き良きイタリア映画のムードをこの映画に観た。しかもそれがミステリーだというから驚く。個人的にはブレッソンの『ラルジャン』にも似てたかな。ブレッソンっぽい街の捉え方が全編を覆ってて生々しいんだわ。

『恋空』だという超級のカス映画を観るくらいならこちらの方が断然上質で大人の映画です。観るしかない!あういぇ!