『クローバーフィールド』を観る(2回目なので、ネタバレ感想)


10時半に『クローバーフィールド』をまた観に行く。2回目の鑑賞だが、やはり衝撃作だ。映画ライターのドリー尾崎さんが「月刊シネコンウォーカー」で、

“一過的な衝撃にとどまらない、怪獣映画の歴史に深く刻まれる一大エポックだ”

と書いてるが、これは過大評価でもなんでもなく、紛れもない事実で、これには一語一句完全同意せざるを得ない。

実際、2回観てもそう思った。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』は1回こっきりの飛び道具だが、『クローバーフィールド』はアトラクション的な要素もあれば、しっかり映画にもなっていて、さらに『キングコング』ではなく、ちゃんと日本の『ゴジラ』にリスペクトしてるので好感が持てる。

クローバーフィールド』はJ・J・エイブラムスが日本に来た際、いろんなところにゴジラのフィギュアが売られてるのを見て、日本の『ゴジラ』はこんなにも愛されてるのかと感激し、自分も東宝SFが好きだった事から、それを今の若い世代にも体験させようとして製作された。

『ゴジラ』第五福竜丸事件をきっかけに製作されている。日本は世界で唯一の被爆国だが、実は原爆だけでなく、水爆の被爆も体験している国である。放射能によって生み出されたゴジラは人間が生み出した核を象徴し、当時の被爆に対する恐怖のメタファーでもあった。ゴジラは船を沈め、家をなぎ倒し、放射能を吐き散らして大暴れした。もちろんもう1回世界大戦が起きれば、これ以上の事が起こる。世界的にも類を見ないデストロイムービーとして、ゴジラアメリカでも公開され、話題になり、スピルバーグティム・バートン、そしてJ・J・エイブラムスにも衝撃を与えた。

「日本が水爆のメタファーとしてゴジラを作ったように、僕も9.11での恐怖を盛り込んだんだ」エイブラムスはこのように語った。つまり『クローバーフィールド』は精神状態までも『ゴジラ』をリスペクトしている。『クローバーフィールド』の怪獣は海からやってきて(しかも日本で生まれた)タンカーを破壊し、そして上陸する。これは『ゴジラ』とまったく同じ流れだ、まぁゴジラは漁船で、さらに時間もかかってるんだけど、それを短縮して、一気に見せ切ったのが『クローバーフィールド』である。

そしてエンディング。エンディングで流れる曲は間違いなく『ゴジラ』のテーマソングのオマージュだ。エイブラムスは構造から、怪獣の行動、さらに音楽までも徹底的に『ゴジラ』にこだわっている。

もちろん『ゴジラ』だけでない。それだけだったら『クローバーフィールド』はエポックメイクな怪獣映画にならない。『クローバーフィールド』は9.11の映像をそのまま、再現しようとする。

スピルバーグ『宇宙戦争』は現実に起こった以上の恐怖をスクリーンに見せつける事となった。9.11以降としては、最凶の映画と言っていいだろう。9.11を象徴した『宇宙戦争』はエンディングまでも、人間は細菌よりも劣る、ただのクズであるという凶悪な終わり方で終わる(と、オレは思ってるんだが)

クローバーフィールド』が『宇宙戦争』を下敷きにしているのは間違いない。だが、9.11以上の事をやろうとしたスピルバーグと違い、エイブラムスは、ブルックリン橋を渡ったり、地下鉄を歩くという行動までも完全再現する。しかも『クローバーフィールド』は行動を完全再現するだけでなく、スピルバーグのように+αの事をする。ブルックリン橋は人を乗せたまま落ち、地下鉄を歩けば、カニのようなエイリアンに襲われてしまうのだ!

そして『クローバーフィールド』が第2の『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』にならなかった点、それは主人公が映画的な行動をするという事に尽きる。これはマイミクのぱてんさんが指摘してたが、怪獣に襲われて、1番被害がひどいところに置き去りにされた彼女を主人公が助けにいくというのは、ホントに今まで何千回と世界で行なわれて来たプロットだ。

ぱてんさんは『クローバーフィールド』について、

いやこれ、王道なラブストーリーでむしろ女子が燃えますぜ! 文句なし!

と表現してたが、まさにこれがピッタリ当てはまるのである。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』は確かに恐かったのだが、映画的な行動などは一切ない。『クローバーフィールド』は『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の方法論で作られながらも、実はメインプロットはハリウッド映画でよく見かけるヤツである。

大学の時から好きだった女の子とエッチしたんだけど、自分は東京に転勤が決まって、それをどう話していいか分からなくて、あーだこーだしてたら、その娘には新しい彼氏と思われる男がいて、その娘も成り行きで付き合ってる感があって、今一歩踏み出せないところに、怪獣がやってきて、それで自分はその娘を好きだという事に気付いて、助けにいくという。まさに王道なラブストーリーである。んで、その最中にいろんな災難があって、仲間もどんどん死んでいって、と、流れは徹底的にベタなのだが、それが『クローバーフィールド』と『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の決定的な違いだ。

さて『クローバーフィールド』についていろいろ感想をみかけたので、それについて書こう。

まず「なんであんな状況でもビデオ回してるんだ!?」というツッコミについて…

バカやろう!ビデオ置いたら映画にならないだろ!ジョン・フォードだって、ちゃんと言ってんだよ!ノータリンが!『マッドマックス2』だって、タイヤ撃ったら、あのカーチェイスにならねぇだろうが!

和製『ブレア・ウィッチ』として話題になった『ノロイ』が失敗だと思うのは、主人公自身がビデオカメラを回してる点にある。ラストで自分と自分の奥さんに災難がふりかかるのだが、自分でカメラを回してたら、カメラよりも奥さんなんとかしたれや!ってこっちは思うわけだが、『クローバーフィールド』はしっかりと第三者にカメラを持たせてるので、主人公がどんなに無茶をしようと『ノロイ』ほどの違和感やツッコミは感じさせない。

次に「何が起こってるのか分からない、説明不足すぎる」という事についてだが…

当たり前だよ!バカやろう!何が起きてるか分からないから恐いんだろうが!

飯を喰っていて、いきなり大きい音がして、外に出たら、近くにあるビルに飛行機が2機突っ込んでたとしよう。そこで「何が起こってるのか分からない、説明不足すぎる」って怒るヤツ居るか?まず「何だ!?何が起きてるんだ!?ギャー!逃げろー!」ってのが先だろうが!!『クローバーフィールド』はそれを徹底的にやってんだよ!だから説明不足で当然で、一体何だったんだ…っていうのが正しいんだ!何でも答えを求めようとするな!

宇宙戦争』や『トゥモロー・ワールド』でも同じような感想を言ってるヤツが居て、ホントに腹立たしい…ぶつぶつ…

つー事で、他にも『ニューヨーク1997』のポスターにヒントを得た話だとかを書こうと思ったのだが、非常に長くなってしまったので、ここらで終わろうと思う。あういぇ。