野狐禅『自殺志願者が線路に飛び込むスピード』


親父とがっつし酒を飲んだ。私の親父は吉田拓郎が死ぬほど好きで、まさにキチガイ。んで、子供の頃から私もよく聞かされてて、その後も普通に井上陽水とかはっぴいえんどを好んで聞いたりしたんだけど、なんか、今は吉田拓郎のようなヤツが居ないという話になったので、親父に2つのバンドを教えてあげた。

まず1つがガガガSPんで、もう1つが野狐禅である。

ガガガSPは最近でも「にんげんていいな」をカバーしてたりして、かなりメジャーなバンドになったが、初めて聴いた時、ものすごく感動した事を覚えている。ガガガSPの音楽性は聴けば一発で理解出来る。まだ吉田拓郎よしだたくろうだった時の“ですます字余りフォーク”をパンクサウンドにのせるというもの。吉田拓郎の譜割りを徹底的に研究したようなメロディの作り方は完全パスティーシュなのだが、それをビートのきいたパンクサウンドにする事でオリジナルなものへと昇華させる事に成功した。

個人的に青春パンクブームは嫌で太陽族とかSTAND UPとかスタンスパンクスとか聞いても全然良いと思わなかったが、唯一ガガガSPゴーイングステディはよく聞いていた。実際親父に聞かせたらものすごくおもしろがって、「こういう音楽性のバンドが今の時代に支持されてる事は個人的には嬉しい」と言ってた。最近聞かなくなったが、久しぶりに聞いたらやっぱりかっこよかったので今度アルバムを借りて来ようと思う。

んでもう1つの野狐禅は昔、結構話題になったユニットで、アコギとハーモニカ、ボーカルとキーボード、コーラスという2人組。ライブをする時はこれにドラムが加わり、アコギとキーボードとドラムというユニークな編成のスリーピースになる。これまた強烈な歌詞を字余りフォークにするというもので、それこそ岡林信康とか高田渡とか三上寛のような社会と人間に潜む暗部を鋭くえぐった歌詞がすごいと思った。

銀杏BOYZZAZEN BOYSサンボマスターに先駆けたような歌詞と音楽がカッコ良く、特に『自殺志願者が線路に飛び込むスピード』という曲がメチャクチャ好きで聞いてた。でも、シングルしか聞いてなくて、これもちゃんとアルバムを聴かなきゃなと思った。youtubeに『ならば、友よ』という曲の動画があり、それを親父に見せたら、やっぱり同じような事を言ってたな。今、事務所を離れて、個人的に活動してるみたいだ、頑張って欲しいなぁ。

てなわけで、野狐禅のファーストアルバム『鈍色の青春』を聞く。ものすごくかっこいい。曲のテンポ的には3連とか、いわゆるあの頃のフォークの感じから、ギターロックやパンクをそのままアコギでやり、歌詞をZAZEN BOYSのようにわーっと喋るような曲に分かれてる。それにしても歌詞が強烈だ。

カッターナイフを左手首にグリグリと押しつけている僕を見てお前は「どうせ死んでるようなもんだろう 今さら死ぬ必要もないだろう」なんて屁理屈垂れやがったよな

など、圧倒的に生と死について歌った歌が多い。「死にたい」という感情と「生きたい」っていう感情は表裏一体だからね。死にたいけど死んでたまるか!みたいな事は誰でも思うんじゃないかなぁ。そういう事をウソなく歌ってるのはホントに共感出来る。自殺するくらい勇気があるなら人殺しだってなんだって出来るという曲から、中途半端だから叶える事も諦める事も出来ないとか全部生々しい。特に彼女との日々を歌った『さらば、生かねばならぬ』はホントに彼女との生活を覗き見してるようで生々しい。

そしてシングル曲でもある、死んだような生活を送るくらいなら、自殺志願者のような勢いで生き続けたいという『自殺志願者が線路に飛び込むスピード』はやはりかっこいい。こういう音楽は売れないだろうが、分かる人には分かるし、きっと届くはずだから、頑張って欲しいなぁ。