原作を読んでからの『蟲師』感想。

蟲師 (通常版) [DVD]

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蟲師』のDVDを観たが、やっぱり今回観なおして思った。やっぱり、ぬいのエピソードは絶対にいらなかった。今回、原作を読み、元々原作が独特なものなんだと分かったうえで観ても、やっぱりぬいのエピソードはいらない。

明らかに映画のテンポ、リズムがズレてる。トコヤミが出て来るあたりは幻想的でいいんだけど、それ以外の部分はどうでもいい。あれがなかったら2時間くらいになってるはずで、何故初稿のままで行かなかったのか不思議でならない。編集した段階でなんか浮くなぁとか、テンポがないなぁって思ったら、バッサリと切る勇気も必要だと思う。

ガイ・リッチーだって『スナッチ』を作った当初は、「3時間あって、どれもこれも自分的には切れないシーンばっかりだったけど、見終わったらクソつまんなかったから、バッサリ切りまくって、2時間以内にした」って言ってるくらいなんだから、編集で落とすべきだったんだよ。

しかも、細々と、回想として微妙に入れてるでしょう、あれ丸々ワンシーンにしてしまうと、もっと要らないシーンとして目立ってしまうからなんだよね。

もっと言えば、虹郎と別れてから、ぬいに会いに行くエピソードがさらに要らなくて、絶対的にギンコと虹郎の別れである初稿の終わり方で良かった。ゆったりした時間が流れる映画だし、セリフも展開も間を持たせた『ウエスタン』のような演出なので、要らないシーンがホントに完全に浮く。せめてトコヤミに喰われて、よきがギンコとして生まれ変わるくらいのエピソードでよかった。絶対に2時間以上ある映画にすべきではなかったんだ。せっかく音楽も映像も脚本も役者もいいのに、構成と編集が惜しい。ぬいのエピソードが要らないという人も絶対に多いはずだ。大友克洋はメイキングで『ぬいの顛末はやらなきゃいけないかなと思って足した』と言ってるが、個人的には余計なシーンが追加されただけという感じだ。

さて、それはそうと、やはり原作を読んで、世界観を知ったうえで観るとワンカットワンカットの作り込みは素晴しいし、脚色も見事だ。しかも漫画では一瞬でしか出て来ない蟲を完璧に映像化したのは大友克洋の感性だろう。

ちゃんと原作+αの映像になってるのは、実写化を熱望しただけの事はあり、大友克洋の監督作として、オリジナリティ溢れるものにもなっている。わざわざ人が入って来ないような自然を選び、CGを使わずに日本の風景として構築したのは見事。虹郎と淡幽というキャラを映画用にリライトし『柔らかい角』で蟲師の職業がどういうものなのかを説明させ、『筆の海』と『雨がくる虹がたつ』を上手いバランスで混ぜ込んだ脚本は素晴しい。実際、漫画だと個々のエピソードは短編集のようで、それが魅力でもあるが、ちゃんとそれを下地にして、新しいモンとして蘇らせたのは見事だと思う。実際原作の中で1番ギンコが蟲師として活動してるのは『柔らかい角』で、ちゃんと医者のようにギンコが治療してるのはこのエピソードだからね。

今回観なおしても江角マキコの演技はひどいなぁ。『よきー!どこだぁぁぁ!』のセリフはあり得ないだろう。

ただ、やっぱり大友克洋と言えば、こういうもんを作るだろうという先入観で、物語に起伏がないと書いてたのは勝手な感想だったなぁと思った。こういうもんだと受け入れられるか、受け入れられないかが評価の別れ目だったんだろう。

実際『蟲師』の原作を読んでた人はこの映像化には納得だったんじゃないかなぁと思う。だから冒頭の土砂崩れから『柔らかい角』→虹郎との出会い→『筆の海』→『雨がくる虹が立つ』の流れで終わって良かったんだな。この間に『眇の魚』をバラバラにして入れて、ラストに余計な物がくっついてるのはホントに惜しい。

たしかに『眇の魚』がないと、蒼井優が出て来るシーンでギンコがトコヤミにやられるのが理解出来ないが、それでもホントにちょこっとだけでよかった。長過ぎる。

今回、原作を読んで、原作の世界観を知ったうえで観なおしたら、前に観た時よりも良いと思えた。納得した。ただやっぱりホントに原作の『蟲師』は無茶苦茶素晴しい漫画なので、惜しい!という言葉がやっぱり1番に浮かぶ。でも、もう1回観ようかなとも思った。

あ、あと原作のギンコは常にタバコを吸っていて、それが印象的なんだけど、何故か映画版ではそれが無くなってる。蟲を寄せ付けない蟲煙草なんだけど、何故なくしたんだろう。それだけ聞きたいなぁ。オダギリジョーが生意気言ったんだろうか。