イキガミ

仕事終わりで『イキガミ』鑑賞。原作も知らないし、言えば、その設定すら嫌悪感があるわけだが、
それでも観たのは…仕事終わりで観れる映画がそれくらいしかなかったからだ!

さて、原作をまったく知らないので、ホントにホントに映画単品の感想になるわけだが、(あくまで感想なのであしからず、原作も知らずに映画評論を書くなんておこがましい行為だ!)

まずね、やっぱり、設定に無理がありすぎでしょう。リアル鬼ごっこ』や『バトル・ロワイアル』と一緒で、メタファーになるべき核に不条理があるのは、物語に入って行きずらいというか、リアルなんだかリアルじゃないんだか分からないというか、18歳から24歳まで国家繁栄維持法の対象に入っているんだったら、どうせ死ぬかもしんないからって、いう事を理由に「24歳まであーそぼ!」って言って、もっと社会はだめになる気がする。むしろ、それを理由にレイプだの強奪だの大虐殺だの(あ、ごめん言い過ぎた)が増えたりして、法律として、そんな法案が通るのか?という感じだ。まぁ、マンガだから良いのだけれど、

脚本は原作者が書いていて、各エピソードもどっかで観た事あるような感じだが、その大胆な設定とは裏腹に、個々の人間はなかなか深く描けていて、もちろん、そんなのありえねぇだろ!という部分もあるが、ケータイ小説なんかにありがちな納得いかない心理描写などはなく、意外と感情のぶつかり合いだとか、人間が死を前にしたら、どのような行動を取るか?というのが、なかなかリアルで、設定こそあり得ないものの、映画自体は意外とすんなり入っていけるように作ってある。

イキガミ』は星新一の『生活維持省』の盗作じゃないか?と疑いがもたれている。私も『生活維持省』を読んだのだが、設定こそ似ている物の星新一の方が全然ひねりが利いてるし、何よりも怖い。『イキガミ』は星新一よりも、、、

えんどコイチの『死神くん』に限りなく近いと言える。

ぶっちゃけ観てるそばから、これ『死神くん』なんじゃねぇの?って思ってしまったし。

『死神くん』はえんどコイチの代表作と言える漫画で、えんどコイチと言えば『ついでにとんちんかん』が有名だが、実は『死神くん』を読めば分かる通り、ギャグ漫画の出身ではない。

『死神くん』はその名の通り、若者だろうが、老人だろうが、偉人だろうが、不良だろうが、子供だろうが、年齢や時間など関係なく、ある日突然死神がそのストーリーの主人公に死を宣告しにやってくる。そして、死を宣告された人たちは今までの人生を見つめなおし、命の尊さに気づき、今まで何かをやり残してないだろうか?誰かに謝らなければならなかったんじゃないのか?など、それぞれが死ぬ前に何かを残そうと模索したり、今までの人生を反省するというストーリーがメインで、さらに魂と引き換えに3つまで願いを叶えてやろうという悪魔くんなるキャラまで登場し、そこに人間とは命と引き換えに自分の物欲までもかなえてしまうという、哲学的な要素まであり、悪魔くんメインの話までもある、一話完結の短編集のような漫画である。絵はヘタクソだが、物語の完成度は非常に高く、ラブストーリーから感動的な話まで、見事にか書き分けた傑作中の傑作である。

はっきり言えば『イキガミ』は死神くんが逝紙配達人になっただけで、ぶっちゃけ、設定も若者に切り替わっただけ。さらに死神が死を宣告しにくるという方が、国家が勝手に死を宣告するという事よりも受け入れやすく、しかも、若者だけに限ってないだけに、もっとオムニバス色が強くなり、おもしろくなったんじゃないかなぁと思わせる。

じゃあ『イキガミ』はそこまでダメなのか?と言われるとそんな事もなく、設定こそ受け入れられないものの、実は今の映画界にない、役者の演技を中心に据えた演出を披露し、各エピソードの主役達も山田孝之以外はそこまでメジャーでない役者を起用しており、キャスティングと演出がバッチシ噛み合った作品なのは確かだ。

実際、松田翔太佐野和真長回しで迫真の演技を繰り広げるシーンがあり、ここのシーンにはさすがに度肝抜かれた。目立つCGも少なく、おいおい!監督やるじゃねぇか!と正直に思った。監督は『犯人に告ぐ』の瀧本智行なるほど、、、、納得。。。


私はオチも伏線のほったらかしも好きではないし、何よりも設定がやっぱり受け入れられない部分があるが、監督の演出がこの無茶苦茶な設定に説得力を持たせたのは確かだ。『イキガミ』完成度は高くないと思うし、非常にアンバランスで自信を持っておすすめは出来ないけど、

なかなかなんじゃないっすかねぇ?