サランドラ

昼までがっつし寝てしまって、12時から『サランドラ』鑑賞。本当は『おくりびと』を観ようと思ったんだけど、さすがに起きれず、よろっと映画がたまってしまうなぁ。

『サランドラ』はホラー映画の巨匠、ウェス・クレイブンの作品で、カリフォルニアの砂漠地帯を舞台に、退職警官一家と食人一家の闘争を描いた作品。逃げ場の無い、ある意味閉鎖された空間での緊迫した、、、というよくあるヤツではあるが、あのちょー大傑作である『ヒルズ・ハブ・アイズ』はこの『サランドラ』のリメイクなのである。

私はリメイク版から観てる体たらくだが、だってビデオレンタルないんだもん!しかも2しかないんだもん!

なんて事を書いていたら、マイミクのごあさんに「よかったらビデオお送りします」と言われたので、ご好意に甘える事にした。わざわざ、すいません。

さて、これね、オリジナル版観て分かったけど、

明らかに作品としてはリメイク版の方が上だね。

これは『スカーフェイス』を観た後に『暗黒街の顔役』を観たとか、『ドーン・オブ・ザ・デッド』の後に『ゾンビ』を観たとか、『ブレード/刀』の後に『片腕必殺剣』を観たとか(いや、これは『ブレード』の方が作品は上だ)「お前は所詮後追いじゃねぇか!」とか、そういう事ではなくて、客観的に観ても、『サランドラ』は言っても佳作だけど、『ヒルズ・ハブ・アイズ』は大傑作なんだな。

もちろん『サランドラ』無しでは『ヒルズ・ハブ・アイズ』は生まれない。『サランドラ』を観れば分かる事だが、『ヒルズ・ハブ・アイズ』はオリジナル脚本にウェス・クレイブンがクレジットされてるだけあって、オリジナル版に沿って実直なストーリー展開だ。まるまる完コピと言ってもいいくらいなのだ。

じゃあ、何が違うのか?まず深みが違う。リメイク版では危険な目に遭う家族の描写が丹念だ。今、この家族はなんでこういう旅をしているのか?どういう状況なのか?この家族は普段どんな親交があるのか?どういう位置関係なのか?誰が強くて、誰が弱いのか?オリジナル版では簡潔になってる部分が、リメイク版では異常と思えるほどに深く丹念に丹念に描き込んで行く。それはまるで鉛筆で下書きをし、しっかりと絵の具を1つ1つに塗り込んでいくようだ。そういう意図は無いにしろオリジナル版が「餌食になる家族は誰でもいい」という風に見えてしまうほどに細かく描写している。

さらに「何かが起こりそう」という雰囲気、空気感がリメイク版では抜群。顔ににじむ脂、ハエ、砂埃、遠くから見られてるという視線、これらが実はオリジナル版にはない。『悪魔のいけにえ』のリメイク版もそうだったが、細かい部分での雰囲気作りを丁寧にしている映画は素晴らしいと思う。『007 カジノ・ロワイヤル』も服の汚れや傷の付け方がリアルだったが、そういうのは映画を夢中にさせるアイテムとして重要だ。

“全米38州が上映禁止を決定した”という触れ込みだが、オリジナル版の残虐描写はかなり控えめで、オリジナル版をバランタインだとすると、リメイク版はボウモアの12年ものと言った感じ。ごめん。わかりにくかった。言い換えると、オリジナル版がロッテのミルクチョコレートだとすれば、リメイク版は99%カカオのチョコだ。

さらに奇形の人食い人種も被害者であるという側面がリメイク版では強い。リメイク版は2つの家族の物語でもあり、人間によってこのような醜い生き物に変えられてしまったという、悲しい話でもあるが、それも薄い。

決定的に違うのは赤ちゃんが誘拐された後にひと盛り上がりあるか、ないか。『ヒルズ・ハブ・アイズ』はペキンパーの『わらの犬』を彷彿とさせる迫力のバイオレンスがあり、携帯しかイジってないひ弱なアンちゃんの通過儀礼があるのだが、オリジナル版には無い。というか、リメイク版の家族は繋がってるようでバラバラで、それがこの殺し合いを通して1つに繋がるというのもあるが、そういうのもオリジナル版では薄く感じてしまう。

言ってしまうと、オリジナル版は“何か物足りない”映画なのだ。まぁ、これはリメイク版から観てしまった悲しい性かもしれないが、普通、これだけの要素が足されると、それは“長い”とか“いらない”とか思ってしまう。『ヒルズ・ハブ・アイズ』にそれを感じなかったのは、その付け足された要素が、オリジナルへの敬意を感じさせたからだ。

これは勝手な憶測でしかないのだが、監督は『サランドラ』を観て、「オレなら、もっとこうする!そうすればもっともっとおもしろくなる!」と思ったかもしれない。「オリジナルはとても偉大だけど、オレがもっとおもしろくしてやるぜ!」という心意気すら感じるのである。

それは「好きだけど、何か物足りないと感じた」曲を後世のミュージシャンがカバーして、それがオリジナルを越えてしまった事と類似する。The Crashの『I Fought the Law』のように。

私はリメイクを作る意味が分からないとかいう考え方には殺意すら覚える。もちろんリメイクだらけでオリジナルの企画が生まれない事はダメなのだが、「あの偉大なオリジナルを冒涜してる」とかいうふざけた考え方はまったくない。むしろリメイクは大歓迎だ。あのアーティストのあの名曲のカバー!と同じくらいワクワクする。そんなリメイクに否定的な人でも『ヒルズ・ハブ・アイズ』は傑作だと絶対に言うはずだ。

誰がなんと言おうと『ヒルズ・ハブ・アイズ』はオリジナルを越えている。これに関して、「リメイクなんて…」という、どうでもいい考えは払拭すべきだし、リメイク版が作られる事に嫌悪する人ほど、そのリメイク版を見てない人が多いので、それにはがっかりさせられるのだった。