『プリンス・オブ・エジプト』と『生命の木』


諸星大二郎の『妖怪ハンター地の巻』を読む。『奇談』の原作になった『生命の木』が大変素晴らしい。原作の方がまとまりがあるし、おどろおどろしくて好きだ。ものすごい世界観だと思うが、なんとこの『生命の木』は妖怪ハンターものの第一作だったらしく、それで映画化されたのか!とも思った。

『生命の木』は東北にある隠れキリシタンの村が舞台。旧約聖書の創世記が独自に伝わっていて、旧約聖書では知恵の実を食べたアダムとイブが、生命の木の実を食べるかもしれないという神の判断により、エデンの園を追放されたとなっているが、この『生命の木』の隠れキリシタンの創世記ではさらに“じゅすへる”というキャラが生命の木の実を食べたという設定になっており、じゅすへるは神同様、不死身の肉体を持つ事になった。そんな創世記が伝わる村に考古学者がやってくるのだが、考古学者が来る3日前に殺人事件が起きていて…というのが話の概要。

でうす、じゅすへる、あだんとえわ、いんへるの、きりんと、ぱらいそなど、『天地始之事』を元にした言語感覚が世界観をウマい具合に構築していて、非常におもしろい。ラストの「ぱらいそさいくだー!」という東北なまりの昇天シーンは映画よりも強烈。キリストの奇跡が諸星大二郎の手で蘇る!

天地始之事はこちらを参考の事→http://www.geocities.co.jp/Playtown-Knight/7829/texts/tenchi.html

11時に起きて『プリンス・オブ・エジプト』鑑賞。旧約聖書出エジプト記を元にしたドリームワークス制作のアニメーション。分かりやすく言うと『十戒』のアニメ版。98年に制作された映画だが、これ、当時のCG技術の限界に挑んだ作品だったんじゃないだろうか。私は映像的には、2Dと3Dが違和感なく合成された『スチームボーイ』や『イノセンス』よりも、まだちょっと不完全マッチムーブの『BLOOD THE LAST VAMPIRE』や『青の6号』の方が好感が持てる。いかにも頑張って合成しました!感が映像に出ているし、ちょっとした手作りな感じも見れるからだ(デジタルなのに)『プリンス・オブ・エジプト』は後者。一体、どれくらいのカット数なんだよ!と思ってしまうくらいCGがすごいし、カメラワークも3Dじゃないと出来ないような事をこの時点でかなりやっている。『プリンス・オブ・エジプト』って話題にならなかったか?こんなに映像がすごい映画だったとは!エジプトの10の災いは『十戒』よりも完璧に再現してて驚くし、クライマックスの葦の海割りは、ほんの十秒くらいだろうが、それでも、あの秒数にかけた時間というのは途方もなかっただろう。『ファインディング・ニモ』よりも先にCGで海を完璧に演出していて、ホントに驚く。建設中の宮殿をカメラが飛ぶように写すのは『ロード・オブ・ザ・リング』よりも早いし、モーセの出生の秘密を明かすシーンでは壁画を3Dにして、その中の絵がカクカクと動くというものすごい発想で演出してて、もしかしたら『プリンス・オブ・エジプト』は忘れられた傑作なのかも!?

チャールトン・ヘストンの『十戒』は3時間39分あるが、『プリンス・オブ・エジプト』は1時間40分なので、かなり要約されてしまっている。出エジプト記の映像化という意味ではCGを使って神の奇跡を完璧に演出したので良しとしてもストーリーが今ひとつ。『十戒』で、憶測の部分も含めて深く掘り下げたモーセの人となりが『プリンス・オブ・エジプト』ではバッサリカット。ミュージカル調になってしまったのも賛否別れるところだと思うが、その歌がナレーション的な役割を果たしているので、効果的だったんじゃないかと。

『プリンス・オブ・エジプト』は超が付くほどヒットしたわけでもないし、忘れ去られた映画になってるかもしれないが、個人的にはかなりお気に入り。『スチームボーイ』で足踏みしていた大友克洋も嫉妬してたんじゃないか?と思うほどの映像美にサムアップ!あういぇ。

妖怪ハンター 地の巻 (集英社文庫)

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