人生の最期くらい、最高のエンディングが欲しくなった


9時半から『ヘブンズ・ドア』鑑賞。個人的に好きな映画が好きな監督の手によってリメイクされると嬉しいものだ。かなり今回のリメイク版は周りでの評判が悪かったが、それもそのはずで、才気溢れるオフビートなオリジナル版が、リメイクではファンタジーデートムービーになってしまい、それに反発を覚えた人も多いはずだ。

確かに『ヘブンズ・ドア』には不可解な事がたくさんある。

・酒の飲み過ぎで死んでしまった男のベッドの下に大量の酒ビンが転がってるのはおかしい、いつ買いに行ってたんだよ!
・病院の冷蔵庫の中に大量のレモン。これはオリジナル版にも言える事だが、外国だとまだ説得力がある
・マサトと春海を追う謎の組織がホントに謎。ギャングだと説得力無いし、ヤクザも違う、って言ってもさ、ねぇ
・ホテルに泊まった2人が警官の服を奪って逃走するオリジナルに忠実な場面があるが、あのー、1人は14歳の女の子ですけど。
・2人が余命幾ばくもないのは調べれば分かるはずで、マスコミもそこに重点をおいて、報道すべきだと思う。
・なんで車の中に拳銃があったのか。
・なんで車の中にあった金がまんじゅうの下にあるのか。時代劇かよ!
・なぜ、メキシコ料理のシェフは彼らを逃がしたのか?
・なぜ、警察はメキシコ料理の店に居た事を知っていたのか?たれこみ??
・追って来たトラックがホントに意味不明『激突!』か!!
・ホストクラブに謎の組織の大ボスが居た事が分からん、オリジナルではストリップ小屋と娼婦館が合体したようなところで、それをギャングが経営しているという設定だったから理解出来るのだが。

加えて、オリジナルにはなかった、海に行くまでの寄り道シーンがかなり余計に感じる。遊園地に行くとか、雨の中のダンスとか跳ね回るところとか、この要素のせいで、いつ、脳腫瘍が爆発するのかという緊迫感がかなり薄れてしまった気も。逆にここがオシャレな感じで良かったって人も居そうだが。

さて、ここまで書いておきながらなんだが、この『ヘブンズ・ドア』個人的には好きである。好きか嫌いかで言うと無茶苦茶好きなのだ。

まず、ウォン・カーウァイを彷彿とさせるゲリラ的な撮影とデ・パルマのように筆写体を軸にまわるカメラ、長回しの多様など、映像表現がピカイチで、このスタイリッシュさというか、オシャレさはオリジナルには決してなかった要素だ。加えて、ロングショットをメインにしたシーンも多く、妙にMTV調の映像が増えつつある中で、久しぶりに映画的なカメラ、映画的な映像表現を見た気がする。遊園地のシーンはソフトフォーカスだし。

先ほども指摘したように脚本はあいかわらず甘いが、リメイク版にしかない台詞が全部名台詞で、それを福田麻由子がなんなくこなしてるのが偉い。さらに『ヘブンズ・ドア』では海に行く理由も「人生の最期くらい最高のエンディングが欲しくなった」とハッキリ言っていて、結構行動に納得してしまう部分も多かったりした。酒を手に入れるのも、車を手に入れるのも偶然という風に演出せずに、「天の恵みだ」と言わせたりしてたし(いや、ホントは台詞で説明しちゃだめなんだけど)、何よりも死期が迫ってる二人が次々と自分のやりたい事を叶えて行く様は緊迫感こそないが、羨ましささえ感じたりもした。よく考えたら、高級ホテルに泊まろうとは思わないけど、自分がすぐに死ぬって考えたら、高級ホテルにだって泊まるかもしれない。でも、長く生きれるかなんて分からないし、いつ死ぬかだって分からないんだから、贅沢くらいはいつしたって一緒だよなぁって思ったりも、それはオリジナル版では感じなかった事なんだけど。

アンジェラ・アキのエンディングテーマは愚の骨頂だし、悪の組織のボスが全然強そうに見えなかったり、追って来たトラックのくだりは笑うしかないが、それでも、個人的な感想を言えば、映像も音楽も役者も物語もやっぱり好きとしか言いようがなく、ぶっちゃけ、もう1回くらいは見てもいいかもと思ってしまった。

なので、おすすめはしません。オリジナル版を見て、どこがどういう風に変わったのか観る分にはいいかもしれませんが、あ、でも好きなんですよ。あういぇ。