もうすぐホワイトデーなので、恋愛映画嫌いな私が勧める一品。

スラムドッグ$ミリオネア』でアカデミー賞を受賞したダニー・ボイルが『トレインスポッティング』で大ブレイクしたのは、確かぼくが中学生くらいで、その時『トレスポ』だけでなく、『シャロウ・グレイブ』にもハマって、その後のハリウッド進出作である『普通じゃない』でノックアウトされた。ところが、『普通じゃない』はそこまで評価されておらず、さらにデカプーの『ザ・ビーチ』もスマッシュヒットに終わったため、ダニー・ボイルの作品は新潟でちゃんと観れない状況が続いた。いや、観れたのかもしれないけど、環境の良い映画館でやらなかったという事である。

ダニー・ボイルの作品に再び会うのは『28日後…』。ダニー・ボイルのスタイルがガラッと変わった作品で、走るゾンビには賛否両論あったが、個人的に『28日後…』は傑作だと思う。後半でただのメッセンジャーである主人公が軍人をバッタバッタとなぎ倒すのはさすがに「ええっ!」って思ったし、上から落ちて来た血液が目ん玉の中にピンポイントで入るのも「ああっ!」って思った。あの辺はもっとドラマティックに出来たんじゃないかなぁとか今更思う。それでも無人のロンドンで主人公が彷徨い歩くシーンなんかはものすごくディストピアな世界だし、デジカメによる手持ちカメラの臨場感と、どこかから覗かれてるようなカメラワークが好きだ。続編も素晴らしい傑作だったけど、『28日後…』は映画館で観て、DVDも買って何度も観た。

スラムドッグ$ミリオネア』で再び注目される事必至のダニー・ボイルだが、一番好きな作品は?と聞かれると意外と『普通じゃない』だったりする。

小説家を夢見るしがない清掃員と彼が勤める会社の社長令嬢をくっつけろという指令が天使に下る。そんな中、彼は清掃ロボットのせいで仕事をクビになり、令嬢を誘拐、初めての事なので、まったく頼りない誘拐犯となった彼だが、いつの間にか彼女に主導権を握られる…

というのが大まかなストーリーなのだが、改めてこの作品を観なおすと、フランク・キャプラの名作『素晴らしき哉、人生』と『或る夜の出来事』が元ネタだった事に気づかされる。女性の方が社会的地位が高いという意味で『ローマの休日』も彷彿とさせるが、こちらは銃は出てくる、血は飛び出す、主人公2人は踊り狂う、キャメロン・ディアスがエロいなど、クラシカルなものをポップでキュートに、そして刺激的に味付けしているので、『ローマの休日』が生温いという人には(つーか、そんな事言うのはオレだけなんだろうけど)是非こちらをお勧めしたい。

確かにすっげぇご都合主義だし、アホくさいほどロマンチックだし、設定も無茶苦茶なんだけど、ユアン・マクレガー演じるダメ男を金持ちでセクシーなキャメロン・ディアスがグイグイ引っ張って行くという構図が、男の夢なんだよ!!!『ローマの休日』は外の世界を知らないお姫様が普遍的な生活や普遍的なイベントに感動するという映画だけど、『普通じゃない』は男が「えーん、待ってよぉ」という感じで、普段は体験出来ない犯罪劇に手を染めていくのがおもしろい。

矢口史靖が『アドレナリンドライブ』を撮った時のように、「やっぱりメジャーに来ると、あまり型破りな事は出来ないんかなぁ」くらいに思ってしまったが、普通のハリウッドの恋愛映画とはやっぱり違うし、イギリス時代の作品に比べると、ポップでウキウキする。エンディングでかかるoasisの『Round Are Way』にのせて始まるクレイメーションがナイスで終わり方も含めて最高だ。

という事で、常に優位に立ちたいと思いながらも、いざ付き合うと彼女に尻に敷かれてるぼくなので、キャメロン・ディアスに惚れられて、グイグイと引っ張られるユアン・マクレガーに共感しつつ、「ああ、キャメロン・ディアスだったらなぁ」とついつい思ってしまうのであった。あういぇ。


oasis/Round Are Way
アルバム未収録で『Wonderwall』のカップリングとして収録されてます。こんなクオリティ高い曲がカップリングとは!