チェイサー


7日昼
『チェイサー』鑑賞。ぼくは韓流ドラマも見てないし、韓国映画も片手で数えられるくらいしか観てないので、ホントに大した事言えないのだけれど、日本に入って来る韓国映画って、それこそ、美形の輩が出る映画と映画として飛び抜けた傑作の2つしかないのだろうか。韓国だって映画大国なのだから、駄作もきっと多いはずである。でも韓国のエロスとかも非常に水準が高いので、やっぱり全体的に映画のレベルは高いのかもしれない。なんつっても『殺人の追憶』や『グエムル』が大ヒットを飛ばす国なのだから、観客の目だって確かなものだのだろう。

『チェイサー』は誰がなんと言おうと『殺人の追憶』ありきの作品だが、いわゆる、そのフォロワーに落ち着く事なく、新人監督ナ・ホンジンの手腕が遺憾なく発揮される。黒澤ビスタの画角でステディカムによる長回しやスローモーションを駆使した『殺人の追憶』に比べると、『チェイサー』は映画的な技術をなるべく使わないようにして生々しさを出している。

黒澤映画を彷彿とさせた『殺人の追憶』だが、『チェイサー』に感じるのは北野武の映画だ。必要無いと感じたシーンは全て撮らず、何か行動を起こそうとすると、次のカットではその結果が映し出される。目を背けたくなるバイオレンス描写は秀逸で、CGでさらっとした血が飛び散る『GOEMON』に比べ、粘着質でベトーっとした血はそれこそ脳裏からこびり付いて離れないし、殴る蹴るのシーンも『その男、凶暴につき』の如く、ホントに虫を踏みつぶすようにあっさりとしていて、さらに痛々しさがある。説明的なセリフは一つもなく、子供と心を通わせるシーンの演出は『三丁目の夕日』の100倍上手い。ラストが見事で、これは小津安二郎成瀬巳喜男を彷彿とさせたりもする。セリフもなければ、主人公の些細な仕草でもって全てを体現させていて、グッと来るのである。

あと連想したのは『ダーティハリー』だ。犯人は動機無き殺人を繰り返し、さらに特にこれと言った理由もなく犯人を追いつめて行く元刑事の主人公。追う立場と追われる立場が実は両方とも犯罪者であり、両方とも狂気に取り憑かれて行く。

犯人を逮捕でなく、処刑しようとし、さらには復讐心まで芽生えてしまう主人公の行動がまったく読めず、次にどういう事をしでかすんだろう?とそれだけでハラハラさせるのは、近年映画で感じなかった興奮でもある。派手なアクションシーンも無いし。

『チェイサー』は説明過多になってしまい、規制が増え、無駄に上映時間が長くなってしまった今の日本映画界に喝を入れる。十字架が目立つ教会と、その周りに立ち並ぶ住宅街を右往左往する男達の追いかけっこに打ち震えろ。傑作。