『くもりときどきミートボール』は『グラン・トリノ』とロメロ魂をぶちこんだ傑作!

くもりときどきミートボール』新潟は明日まで ― 古泉智浩の『オレは童貞じゃねえ!!』
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まったくノーマークで観る予定もなかったのだが、古泉智浩さんに公開してることを教えてもらって、さらに一緒に行こうと誘われたので、こりゃ行くしかないと『くもりときどきミートボール』を一緒に観てきた。

いつも読んでるブロガーさんたちも評価していていて気になってはいたんだけど、まさか新潟でやってるとは思わなかった。それでも、まぁ『ボルト』とか『モンスターVSエイリアン』みたいな感じでウエルメイドに作ってある作品なんだろうと、正直、軽く構えて観たのだけれど――――いやぁ!これがかなりの大傑作で見終わった後二人で「ホントにおもしろかったねぇ!参った!」とすさまじい余韻に浸ってしまった。

印象に残るシーンを言い出したらキリがないし、これでもかと畳み掛けてくるギャグは滑り知らずで、何よりも伏線とその回収がうますぎていちいち唸らされる。しかもCGのアニメじゃないと出来ない表現に満ちていて、特に食べ物の質感はハンパじゃない。チーズバーガーが降って来て、地面に落ちて、パンがクッションになって、フワっと着地したかと思うと、挟まってた具材が崩れて、トマトがコロコロ転がる――――この一連の映画的リアリズムが良く出来てる。だからこそ食べ物を粗末にすることにイヤな感情を覚える人も多かったみたいだけど、でもこれ本当の食べ物じゃないんだよ!!『ベオウルフ』のアンジーのヌードと一緒だよ!ホントに脱いでるわけじゃないんだから、そこまで興奮しなくていいんだよ!

ぼくの勝手な意見だが、映画というのは多少なりとも狂ってたフレーバーが入っていた方が良いと思う。「これ好きだわ!」というのと「よく出来てて、おもしろかった」というのは少し違っていて、例えば『スラムダンク』は確かに良く出来たスペシャルなマンガだと思うけど、好きなマンガを選べと言われたらぼくは絶対に選ばない(これを書くとすごく反感買いそうだけど)。

だから『ボルト』はおもしろかったが、やっぱりどこか「良い映画だったよねぇ」というところで止まってしまい、今年のベストテンに入るかと言われると違う気がする。

そこへいくと『くもりときどきミートボール』は、他のCGアニメとは一線を画していて、心の底から好きと言える。何よりもid:tsumiyamaさんが書いていた通り、とにかく狂っている。主人公もマッドサイエンティストというより、ただの引きニートなボンクラやろーだし、食べ物が空から降ってくるというのも狂った発想だ。町の人々や食べ物を食べ続けて異様に太る市長もかなりの狂いっぷり。ただ、その狂ったたくさんの発想がジェットコースターのように加速して行き、映画を唯一無二のものに昇華させた。

特に一番驚いたのは、クライマックスのミートソーススパゲッティの竜巻。

どーですか!この地獄絵図!ここから人々は食べ物による阿鼻叫喚を文字通り味わうことになるんだけど、これにはホントに驚いた。

スパゲッティの竜巻もそうだが、映画自体のパーツは映画的なクリシェを重ねに重ねて「あ、これどっかで観たことある」感があったんだけど(『ミクロの決死圏』や『スターウォーズ』や『ツイスター』『ウォッチメン』など)、それを全部食べ物に変換してしまっているから、オリジナリティを感じたし、映画の中でやれることは全部盛り込んであって、しかもうまく処理されていた。

さらに『くもりときどきミートボール』はキャラクターがいちいち魅力的で、中でもぼくが一番グッと来たのは主人公の親父である。

右が親父。

主人公が住んでいるところはいわししか名産品がない小さな島。いわしはまったく売れずに、町の人がいろんな食べ方をして処理している。主人公の親父はいわしに関する商品を売っていて、言えば昔からいわし一筋。親父はいわば、職人気質で伝統を重んじるキャラなのである。

だから、親父は息子が水を食品に変える機械を作ったあとも、あまりノリ気じゃない。ボタン一つで次々と食品を作り出すシーンに対して、親父はいわしの缶詰をせっせと手作りする。人々がハンバーガーやホットドッグ、ドーナツ、アイスに浮かれ、それらに関するテーマパークを作り、町が生まれ変わって行っても、親父は頑に拒否して、いわし屋を続ける。これは白人が居なくなってしまったデトロイトでたった一人変わって行く町に抵抗して手作りの車を磨き上げる『グラン・トリノ』のイーストウッドを彷彿とさせた(息子が伝統を守ってないというのも似ている)。

グラン・トリノ』に例えたが、そもそも人々が、チェーン店のファストフードに狂ってしまって、そのせいで地元に密着したお店がつぶれていくというのはロメロが『ゾンビ』で警鐘を鳴らしたことの食文化版とも言える。

というわけで、他にも言及したらキリがないくらい、多面的な魅力に満ちた『くもりときどきミートボール』は機会があれば、是非観ていただきたいと心の底からおすすめ出来る傑作だった。

見終わったあと、古泉さんに「あれはロメロの『ゾンビ』も入ってましたよね!それの食文化版!イオンなんてブロックバスターですよ!やっぱり一人で細々とやってる食堂とかラーメン屋とかで飯喰わないとダメですよ!」と息巻いていたのだが、イオンの中の大阪王将で餃子喰うわ、ファーストキッチンでコーヒー飲むわ、さらにみかづきでジュース買うわ、5時間も籠城して、すっかりぼくらも消費社会の奴隷になっているのであった、あういぇ。

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