『ほえる犬は噛まない』を観たよ!観てなかったんだよ!


ほえる犬は噛まない』をDVDで鑑賞。『殺人の追憶』も『グエムル』も死ぬほど好きなのに、観てなかったポン・ジュノの劇場デビュー作。実は、わたくし、パク・チャヌクの復讐三部作も全部観てないので、ちゃんと観ようと思ったのだった。なぜ『オールド・ボーイ』を観ておいて、他のを観てなかったのだろう。謎だ。

ポン・ジュノの作品を観ていると、一体何を見て育ったのか分からないくらいオリジナリティ溢れる映画を撮っている。しいて言えばビスタサイズにこだわってるので黒澤明をリスペクトしてるんだろうが、『殺人の追憶』は『野良犬』を彷彿とさせても『野良犬』にはまったく似ていない。怪獣映画のセオリーから大きくはずれた『グエムル』も同様、『ゴジラ』にはまったく似ていなかった。

ほえる犬は噛まない』も様々な映画の匂いを感じさせるが、じゃあ、その映画を元にしているのかと言われると絶対に違う。万華鏡のように偉大な映画監督の匂いが映し出されては、変わり、最終的には今までに見た事のない映画を観たなぁと思わせる。

アルトマンのような映画的リアリズムに満ちた群像劇で、コーエン兄弟のようにズレた人間たちが繰り広げるおかしくも哀しい話でもあるし、ジャームッシュのように言葉少ない人たちのコミニュケーションも描かれているし、黒沢清のように唐突なブラックジョークが飛び出したかと思えば、ルイ・マルの『地下鉄のザジ』のようなスラップスティックな追いかけっこもあり、ゴダールのような主人公に寄り添うような揺らぐカメラワークもある。

常にバストショットで一枚一枚、写真を撮るようにワンシーンを構築し、長回しとスローモーションを多用するあたりは後のポン・ジュノ作品を彷彿とさせるのだが、まったくおしゃれじゃない団地をメインにした絵作りなのに、徹底して全編にジャズを使ったりと異彩を放つ。

自由奔放に演じたペ・ドゥナの魅力は充分で、もしかしたら彼女の素ってこんな感じなんじゃないのか?と思わせるくらいのナチュラルな演技だった。

これと言ったストーリーもサスペンスもないが、映画のストーリーを語るというよりも、誰もが描こうとして、描かなかったちょっとだけおもしろい日常をなるべく映画っぽくならないように作ってるような感覚が全編に溢れていて、個人的にはかなり好感を持った作品。マンガの『よつばと!』が好きな人には自信を持っておすすめ出来る良作だ。あういぇ。

あ、書き忘れたけどDVDはメニュー画面が団地になってて、インタビューだとか、チャプターとか、音声切り替えがエレベーターに乗るとかマンションに入るとかわけわかんねーこと書いてあってストレスたまること必至だ。普通にすりゃいいのに…ぶつぶつ…

ほえる犬は噛まない [DVD]

ほえる犬は噛まない [DVD]