事件のカギを握るのは、ビートルズの名曲


2010年1月30日にとてもおもしろそうな映画が公開される。首相暗殺犯に間違えられた無実の男の逃亡劇を描いた、中村義洋監督の新作『ゴールデンスランバー』だ。『アヒルと鴨のコインロッカー』と『フィッシュストーリー』に続いて、伊坂幸太郎の原作に挑んだ作品で、堺雅人竹内結子、音楽の斉藤和義と再びタッグを組んでいる。

ぼくは伊坂幸太郎の小説は一冊も読んだ事ないのだけれど、同監督の『アヒルと鴨のコインロッカー』が大傑作だったので、非常に期待している。予告編もすごくよく出来ていたし、ストーリーやキャストなどを聞いて、すごくおもしろそうだと単純に思った。何よりもこういうスケールのでかそうな映画に堺雅人が主演するというのもとてもいい。

最初『ゴールデンスランバー』というタイトルを聞いても何も思わなかったのだが、映画のポスターに書かれた「事件の鍵を握るのはビートルズの名曲」というコピーを見て、「あ、ビートルズの『ゴールデン・スランバー』からタイトルを取ったのか」と気づいた。何故かというと、『ゴールデン・スランバー』というのはビートルズの中でも、小品中の小品というか、そこまで目立たない地味な曲であって、ハッキリ言えば代表曲とは言いがたいポジションなので、それをわざわざタイトルに付けるとは思わなかったからである。

『ゴールデン・スランバー』という楽曲は『アビイ・ロード』というビートルズの事実上のラストアルバムに収められた曲だが、『アビイ・ロード』はレコードのB面が全部メドレーというユニークな構成(未完成の楽曲を繋げただけとも言える)なので、当然ながら『ゴールデン・スランバー』もメドレーの一部という印象が拭えない。実際曲の時間も1分30秒しかないし、もっと言えば、メドレーで次に繋がる『キャリー・ザット・ウェイト』の方がメロディもインパクトがあって、良い曲だ。ハッキリ言ってしまえば『ゴールデン・スランバー』は『キャリー・ザット・ウェイト』のAメロというか、前フリと言い切っていいくらいの曲なのである。

そんな『キャリー・ザット・ウェイト』の前フリという印象しかない『ゴールデン・スランバー』だが、映画のチラシにとんでもない文章が書かれていた。

数多のThe Beatles楽曲の中でも最高傑作との呼び声高い『Golden Slumbers』


いやいや!!それはいくらなんでもいいすぎだろ!!!

何回も言わせてもらうが、『ゴールデン・スランバー』は『アビイ・ロード』のB面メドレーの一部であって、ビートルズの中でも特出した楽曲とはとても思えない。例えば『イエスタデイ』や『レット・イット・ビー』が最高傑作と言われるならまだ分かるし、それよりも『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』とかの方が、「ああ、まぁ、確かになぁ」と言える感じで、どう考えても『ゴールデン・スランバー』がビートルズの最高傑作とは思えないのだ。ビートルズをベスト盤でしか聞いてない人にアピールしたいのは分かるが、何故こんなコピーを書くかなぁ。ぶっちゃけ「ラストアルバム『アビイ・ロード』に収められた知る人ぞ知る楽曲」で充分伝わらないか?

チラシには劇中のセリフと思われる「ポールは…バラバラになった皆をさ、もう一度つなぎ合わせたかったんだよ…」という文章も書いてあったが、いやいや!『ゴールデン・スランバー』よりも先にゲットバックセッションがポールにとってのそれだから!!ゲットバックセッションでバラバラになった絆を取り戻そうとしたけど、世界最悪のセッションとして、もっと険悪になっちゃったから、今度の今度こそ最後だ!って『アビイ・ロード』を作ったんだよ!『ゴールデン・スランバー』はその時の楽曲なの!!

という具合に映画を観る前から『ゴールデン・スランバー』のポジションについてツッコミまくってしまったが、久々に心の底からおもしろそうと思った邦画なので、その辺の事には目を瞑ろうと思うのであった、堺雅人がおどおどしながら、警察から逃げ回るってそれだけでおもしろそうじゃん。オレ、堺雅人好きだよ。この人が出るだけで、映画観ようという気になってしまうのだよ、あういぇ。

アビイ・ロード

アビイ・ロード

ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー