全員悪人!狂気のごった煮!『ホワイト・ジャズ』

『ホワイト・ジャズ』を読んだ。

ホワイト・ジャズ (文春文庫)

ホワイト・ジャズ (文春文庫)

いやぁ!参った!痺れた!

突如文字が大きくなったり、『/』や『=』、『―』が多用されたりと、今、ブログで当たり前に使われてる表現方法に先駆けた特異な文体と驚異的に短いセンテンス。人間の脳みその中身をそのまま活写したような語り口が絶妙で、それで一気に引き込まれた。しかもそれが飛び道具でなく、ちゃんと綿密に組まれたプロットの元に使われてるので、まったくいやらしくない。政治的な背景や人物の関係性などは、新聞の記事で説明させるあたりも上手いとしか言いようがない。すごい!

冒頭、主人公が重要な証人を見張る役に任命されるのだが、なんの前触れもなく、いきなり主人公はその証人の頭を壁に叩き付け、さらに窓から放り投げてしまう!――――そう『ホワイト・ジャズ』は主人公が悪徳警官であるということをわずか一行で宣誓してしまうのである。

『ホワイト・ジャズ』は権威を笠に着こんで、ギャング顔負けの悪事を働く刑事の話。上司の言うことは絶対。命令であれば、人も簡単に殺す。捜査とは名ばかりで、暴力を振るうための口実でしかない。とにかく善人と呼べる人は一人も登場しない。出て来るのは極悪人ばかりで、北野武の新作のコピーをそのまま使いたいくらいの悪人だらけの小説だ。

話は、警察と癒着がある麻薬王の家に変わった強盗が入ったことから始まる。番犬として飼っていた犬は首を切られ、目玉をえぐられ喉に突っ込まれ、ご丁寧にはらわたまで抜かれている。部屋の中にあった数枚のLPは粉々に破壊され、壁には女性の服が留めてあり、それに精液がこびり付いている。この異常な事件から政治的な波紋が広がっていき、それに巻き込まれた主人公は地獄に片足を突っ込んだまま、グルグルと墜ちていくのである。特にラストの展開は『果てしなき渇き』を思わせる。

この小説にぶちこまれてるのは、近親相姦、セックス、売春、麻薬、暴力、殺人、癒着、金、狂気である。むしろ、それ意外を見つける方が困難と言える。なので「この世は欺瞞に満ちてる!」とか「善人のたわごとなんて、ケツの穴に突っ込んでやる!」とか「品格、品格うるせー!」とか日頃から思ってる人には圧倒的におすすめだ。

すごく有名な小説なので、詳しい解説などは、Amazonレビューかなんかを見ていただければいいと思うが、ぼくが『ホワイト・ジャズ』を読んで関心したのは女である。

主人公はペキンパーの作品のごとく、娼婦やアバズレにしか心を許さない。というか、清純、貞淑貞操なんて、ありえねえだろ!と言わんばかりに、アバズレしか出て来ない。謎の女として出て来たり、美しい女性が出て来ても、絶対に「実はあいつはアバズレだ」と後で判明したりと徹底している。主人公も含め、「男とはこういうイヤな側面を持った生き物だ」と描く一方で、女の方も抜かりない。それでいて、決してメス扱いせずに、尊敬を込めて描いている。

エルロイ作品の女は必ず主人公の独白を素直に聞き、決して文句は言わない。余計な会話も一切しない。「買い物に連れてってよぉ」とか「なんで仕事で遅くなるのぉ」なんていううっとうしいことはホントに一切言わないのだ。男の話を黙って聞き、余計な詮索はせず、激しいセックスをするだけ。それだけでホントに女とは素晴らしい生き物だなぁと語ってるようだ。現に、主人公たちは、金のためでも、地位や名誉のためでもなく、その女のために身の破滅を覚悟して行動する。

これは女の人には絶対に理解されないかもしれないが、非常にぼくは共感する部分である。もしかしたらペキンパー作品が好きなのもその辺にあるのかもしれない。全部の男がそうだとは言わないが、「こういう女が居ればなぁ」みたいなことを思う人も読んでているはずなのだ。

もっと言えば、『ホワイト・ジャズ』には人間の根源は暴力と性だというメッセージがある気がする。そしてすべての人間は狂ってると言ってる。すべてがそれに結びついている気がしてならない。正義とは?愛とは?の裏返しとして、圧倒的に目を背けたくなる描写が連発される。これは『キリング・ジョーク』や『ウォッチメン』にも登場したことなのだが。

ということで、『ホワイト・ジャズ』――――あんましおすすめしません。狂気に満ちた暴力とセックスの世界を覗いてみたい方のみ購入をおすすめします。しかも本屋に並んでないみたいなので、マーケットプライスでどーぞ。

あ、ちなみに今日、エルロイ原作の『ダーク・スティール』という映画を観たのだが、それがまた素晴らしかった。こちらは圧倒的におすすめです。あういぇ。

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