陽気なギャングと大沢TKO

陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)

陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)

陽気なギャングの日常と襲撃 (祥伝社文庫)

陽気なギャングの日常と襲撃 (祥伝社文庫)

陽気なギャングが地球を回す』が面白かったので、その続編である『陽気なギャングの日常と襲撃』を読んだ。買おうと思ったのだが、職場の子が買ってて、読み終わったそばから貸してもらったという体たらくである。ふんにゃか、ふんにゃか。

ネットでの評判は今ひとつのようだが、ぼく的には大満足だ。むしろ良く出来てるという意味では、続編の方が上だと思う。

軽妙でポップなタッチはそのままに、細かく散りばめられた伏線が回収されていくカタルシスは前作を上回っている。4人の主役達をあえて脇役として登場させる4つの短編から始まり、その語り部が今度は脇役として登場する第二章ではそれらが全部絡み合いながら絶妙なバランスでラストに向かって行く。

陽気なギャングが地球を回す』では本筋に関係ない喋りが延々展開され、それがおもしろかったわけだが、『陽気なギャングの日常と襲撃』では、その遊びの部分がグッと抑えられてシャープな仕上がりになっている。各キャラクターの説明が要らなくなったので、主要4人の描き込みはより深く設定されており、特殊能力でカラー分けされてたのが、今度は人柄や口調などで描き分けられているのは書き手がパワーアップした証拠だろう。固有名詞の引用も最小限に抑えられており、ノリで書いた続編という雰囲気はまるでない。濃厚/濃密/濃縮された伊坂幸太郎のかわいらしいギャングの世界である。

ただ、とてもおもしろかったのだけれど、この話って――――極悪人がちっとも出て来ないのな。主人公たちは犯罪者であるが、悪人では決してない。それが、この続編ではもっと強調されることになる。キャラクターの描き分けがうまくいった分、余計な性格付けが増えてしまって、人間味は増したものの、犯罪者=悪人としての魅力はちっともない。

それでも、やはり軽妙で小粋で楽しいのだ。これが世間一般に言われる伊坂マジックというヤツなのだろうか。もっとハッキリ言わせてもらえば、プロット自体、クリビツテンギョウなモノは何一つない。ただ、そのあまり練られてない感が強いプロットが『陽気なギャング〜』の魅力の一つなのだ。ストーリー自体がこんがらがってない分、他の細かいところがこんがらがってるのがおもしろいのである。

というわけで、続編も楽しかったので、仕事の帰りに映画化されたヤツもDVDで借りてみた。レンタルのレジに並ぼうと待っていたら、ツルツルに頭を剃り上げたサラリーマン風のおっさん(スーツを着ていたので)が、並んでるぼくの隣にやって来て、しれーっと列に入りこみ、ぼくの順番を横取りしやがったのが腹立った。帰り事故れ。バカ。

ちなみに『陽気なギャングが地球を回す』の映画版は最悪だった。日本映画の恥。何故か荒唐無稽なCG、スタイリッシュを履き違えたダッサイタイトルバック、デパルマもどきの映像感覚、繊細な演出は皆無な仰々しさ、よくもまぁ、こんな映画を撮り上げて、堂々と公開出来たもんだ。お客さんをバカにしているとしか言いようがない。原作とまるで違うものにするのは一向に構わないが、もうヘンなところを言い出したらキリがない。というか、ヘンなところだけで出来上がってる奇妙な映画であった。何処がヘンって全部ヘンなんだよ!キャストも松田翔太以外は全員がミスキャストというところも見逃せない。やっぱり地雷だったか…あういぇ。