この道を行けば…どうなるものかっ!『ザ・ロード』

南に行きたいのさ/涙も少しだけこぼれるさ
理想はもうちょっと上/嫌がられて結構
もう後には引けん

――――『南行き』GRAPEVINE


ザ・ロード』読了。

ザ・ロード

ザ・ロード

ピュリッツァー賞を受賞し、アメリカで180万部のベストセラーになった作品だが、ぼくは核戦争で地球が壊滅し、そこに残った数少ない人間が、食べ物や石油なんかを奪い合うという『マッドマックス2』的な終末世界がとても好きなので、絶対に読みたかった*1

ストーリーは今書いたように、核戦争かもしくは、巨大な隕石かなんかがぶつかって、地球上の生物が死滅してしまったという世界が舞台*2。そんな地球と呼べるかどうか分からん世界で「彼」と表記される主人公と、「少年」と表記される息子がショッピングカートを押しながら南に向かう「だけ」という小説である。

わずかな人間以外の生物は存在せず、常に灰が降っているので、水も飲めるような状態ではない。植物は枯れ木だけ。しかも子供は「食料」として重宝されるため、出会った人間には速攻取られてしまう危険性が常にあり、主人公は息子を守り続ける。持ち物は防水シートと毛布、拳銃とライターと缶詰がちょっとだけときてる。

開始早々、絶望的な展開になっていて、最初の10ページくらいで二人は死期が近いことを悟っており、そこでグッと来てしまった。せっかく安住の地を見つけたとしても、襲われるかもしれないので、すぐに移動し、また新たな安住の地を見つけることを繰り返すだけ。その死が迫った絶望の世界で、親子は哲学的な禅問答を繰り返し、ひたすら歩き続ける。息子がかつて地球だった姿を知らないという設定なので、欲を知らず、善と悪というモノがなんなのか?人間とは?死とは何なのか?という根本的な問題をものすごいストレートな言葉でぶつけてくる。

風景描写の後の改行のタイミングが実に気持ち良くて、これが映画のワンシーンワンカットみたいな効果を出している。会話のシーンになると「」を使わずに、全てが改行されて書かれていて、見た目もおもしろいのだが、これも映画で言えばソフトフォーカスの中で音声にリバーヴがかかったような幻想的な映像を思い起こさせる。

哲学的な禅問答に合わせ、主人公の心情を映し出すように終末の風景が山ほど出て来るところは終末世界好きとして、とても興奮してしまった。

2006年の小説なのにも関わらず、すでに名作の風格が漂っているところは、さすがC・マッカーシーなのだけれど、この作品が受け入れられたのは生きる意味すら見いだせない絶望の果てで、「何故人は生きるのか?」ということに真っ正面から向き合ってることだと思う。これはSF的な設定であろうが、なんであろうが、国や性別も関係なく、誰もが一度は考えることだろうし。守らなければいけない息子から「あなたのしてることはホントに正しいことなのか?」ということを聞かれるところも、アンビバレントな思想を引き裂かれそうで、なんとも言えない気持ちになる。

というわけで、200ページくらいから若干ダレたものの、終末世界好きとしてサムアップ!『血と暴力の国』が良かった方も悪かった方もおすすめ出来る一冊です。あういぇ。

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*1:読んだこと無いがそれにブルース・リーがプラスされている『北斗の拳』も絶対にツボだと思っている

*2:そういやぁ、こないだニュースでいってたけど、恐竜が絶滅したのは巨大な隕石がぶつかったのが原因なんだって、その衝撃のせいでほとんどの生物と植物が死に、太陽は雲に覆われて、すっげぇ寒くなったんだと