『アルマゲドン』を越える壮大なSF映画

こないだのタマフル怒髪天の増子さんがヘドラについて熱く語っていたが、それにインスパイアされてぼくも思い入れのある東宝SFを紹介させていただくことにする。なんでこんなことを書こうかと思ったかというと、今日は休みだというのに、TBSラジオがまったく聞けないからで、Twitterでフォローしてる人がタマフルについてつぶやいてるのが悔しいからなのである。

ちなみにその映画はぼくが好きな邦画として3本選ぶとしたら絶対に入れる作品でもある。

それは『妖星ゴラス』という作品だ。

地球に正体不明の隕石が近づいてきたらどうしよう?

アルマゲドン』は石油採掘の業者を使って隕石の爆破を試みる。『ディープ・インパクト』は100万人が入るシェルターを作ってそこに避難する。両者は共に98年の作品だが、それに先駆ける事36年前、日本にとてつもない傑作SFが存在していた。それが『妖星ゴラス』だ。

地球よりも6000倍重い(大きさは地球よりも小さい)謎の惑星が地球に接近してくる。ゴラスと名付けられた惑星は、その周りにとてつもない引力を持っていて、他の星をどんどん飲み込んで成長するという、ある種、惑星であって、惑星でない怪獣の様なもの。そんな惑星がどんどん近づいてくるわけだが、地球を救うために日本人が考えたある作戦を世界で決行する日がやってくる。

隕石を爆破?

シェルターに避難??


妖星ゴラス』はそんな生温い設定ではない。なんと、この作品では地球そのものを移動させて、その惑星をかわそうというのだ。こんなアイデア誰が考えたんだ?話自体に無理がありすぎるが、その設定は映画でなければ出来ないもの。そして、それを大真面目に撮ってるものだから、見ているこちらもグングン引き込まれる。

脚本がとにかく見事で、惑星が現れてから、地球を動かすまでのプロセス、それに惑星を調査するロケット、家族、人間ドラマ、クライマックスと息もつかせぬ展開で、なんと映画は僅か89分である。『アルマゲドン』は150分、『ディープ・インパクト』は120分、この作品達と似た様な内容なのにもかかわらず(というか、こっちの方が早いけど)『ゴラス』は89分で駆け抜けていく、なんという濃さだろうか!それくらい脚本も交通整理されていて、入れる情報も的確、しかも設定は無茶苦茶だが、ウソをウソに感じさせないリアリティがあり、それは小難しい言葉や会話によって成立しているのだが、それを退屈に思わせない事もすごい。「地球を動かして逃げる」というまるで子供が考えそうなアイデアを映画の中では実際子供が考えてる事もリアル(笑)そして映画はそれだけでは終わらない。地球を動かしてしまったために訳のわからない怪獣が目覚め、後半は地球を動かしまくるために、世界に大津波が押し寄せる。そしてラスト…そう、まだ問題はあったのだ…

すごいのは脚本やアイデアだけではない。まず演出。ミニチュアを使って監督が求める絵を再現していくのだが、この技術がハンパじゃなく。予算はどうだったかしらないが、ワンカットにかける情熱がこちらにまで伝わってくる。しかもその1枚絵を『第三の男』の様にスピーディーなカット割りでぶった切りリズムをつける。中盤の南極のシーン、そしてクライマックスの大津波のシーンはこの編集によってより特出した出来になっている。そのクライマックスの大津波のシーンであるが、CGを使った『ディープ・インパクト』よりも迫力がある。ミニチュア撮影なのだが、撮り方がうまく「このまま地球はどうなるんだろう?」という感情が自然にわき上がってくる。あえて逃げ惑う人を入れないところにこの映画の怖さとおもしろさがあると言ってもいいだろう。

そして役者、科学者を演じた上原謙は抑えた演技で的確にセリフを転がし、それとは逆に志村喬は少し拡張した演技で(それでも幾分抑えてはいるけど)リズムをつける。芸達者であり、スターである2人をこの映画にキャスティングしたのは見事というほか無い。好青年丸出しという池辺良や久保明も爽やか。特撮に喰われてない役者の使い方も見事だ。

アルマゲドン』と『ディープ・インパクト』が良かったという人はこれを見たら腰を抜かすはずである。個人的には『新幹線大爆破』や『太陽を盗んだ男』に並ぶ、日本を代表する娯楽作の1本。壮大なスケールと映画ならではのアイデアに酔いしれよう。あういぇ。

妖星ゴラス [DVD]

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