『ボーイズ・オン・ザ・ラン』はスカっとしない『宮本から君へ』である

ボーイズ・オン・ザ・ラン』鑑賞。

一言でいってしまうと、見るからに負け犬な男が完膚なきまでに叩きのめされるという映画。

マーケティングを最優先するあまり、作品に沿ったキャスティングがまったくされない映画が多いこの昨今だが、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』は作品にバッチリあったキャスティングがなされており、大御所の俳優さんをはじめ、ミュージシャンからイラストレーター、タレント、アイドル、演出家という多彩な才能が集まり、それぞれの役を見事に演じ切っているところにまず目が行く。

主演から脇役まで抜かりないキャスティングだったので、その役を中心に据えた演出は作品の規模を考えると、非常に堂々としている。写実感満載のリアルなセリフ回しとナチュラルな演技、ロケの効果が相まって、映画全体は不思議なウエルメイド感を出していた。

役者とセリフの演出で一番驚いたのは主人公が公園でペヤングを食べるシーン。青山というキャラクターが「一口もらっていいっすか?」と言って主人公からペヤングを一口だけもらう。そして「さっき、いっぱい食べて来たんですけど、こういうのって人が食べてるの見ると、喰いたくなるんすよ。あ、でも、こういう食いもんて一口だけだからいいんっすよね」と言うのだが、このセリフが後の青山の行動の比喩的表現になっていて、うまいなぁと思った。ただこれは原作にも丸々あるシーンらしく、それをちゃんと分かって映画に使ってるところなんかはうまい脚色だと感心した。

だが、この『ボーイズ・オン・ザ・ラン』はある特定の人間の心をズタズタにするくらい、残酷で陰湿で陰惨な話で、ハッキリ言ってしまうと救いが1nanoもなく、ダメなヤツは、どんなに頑張ったとしても、金持ちやイケメン、売れっ子にはどうしても勝てないという敗北感で満ちあふれている。

これは当初から狙ったのだろうが、この「どんだけ努力しても奇跡なんて起きないし、何にも変わらない」という絶望感は、今絶賛公開中の『ソラニン』にも通じるテーマであり、この『ボーイズ・オン・ザ・ラン』は裏『ソラニン』というか、『ソラニン』の絶望感をさらに煮詰めて煮詰めて、エグく、どす黒いもんを注ぎ足したような作品になっていて、ハッキリ言ってしまうとぼくは二度と観れないくらい、ぐったりしてしまった。作品の後半にも出て来るが『ボーイズ・オン・ザ・ラン』は『タクシードライバー』のトラヴィスには決してなれず、その鬱屈した怒りだけが蓄積された状態で映画が終わってしまうのである。

これが実は原作ではある程度解消される作りになっていて、その金持ちでイケメンで人当たりが妙に良い、ヤなヤツ青山は原作ではかなり悲惨な末路を迎えており、それが原作で補填されるわけなのだ。

ぼくが『ボーイズ・オン・ザ・ラン』を観て連想したのは、ずばり『宮本から君へ』である。

『宮本から君へ』も同じく営業マン。純粋であるが故に、突っ走って失敗することが多く、青山のような人当たりは良いのに、実のところすんげぇヤなヤツというのもちゃんと登場し、そいつと対決する。

『宮本から君へ』だと主人公は一応勝利を収める。ものすごい追い込まれ方をして、絶望ギリギリまで追い込まれるが、大逆転満塁ホームランが待っているのだ。

もしかしたら作者は『宮本から君へ』の反発から『ボーイズ・オン・ザ・ラン』を書いたのではないだろうか?『宮本から君へ』は元々『島耕作』からの反発から生まれた。スタイリッシュなサラリーマン像をぶち壊し、地べたを這いずり回ってそれでもやらなければいけない男の燃える話になっていた。『ボーイズ・オン・ザ・ラン』はその体裁はなぞりながらも主人公は救われない。ダメはダメなヤツのまま終わって行く。

というわけで、原作を読んでない立場から勝手な感想を書いたが、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』はよほどの覚悟がないと完全にノックアウトされるくらい悲惨な物語。まだ観てないが『ソラニン』はどういう出来になってるのか楽しみである。そして、これを同時に公開する新潟ってどうなん?あういぇ。