最後にグラッパで締める暴力のフルコース『アウトレイジ』

アウトレイジ』鑑賞。

以前、北野武淀川長治御大*1と対談した時に映画のシナリオについて質問され、こんなことを言っていた。

淀川―あんたどういうとこにヒントを得てシナリオ書くの?忙しいでしょ、毎日。


北野―絵ですね。校庭を自転車で走ってる二人の絵が浮かんだりしたら、そこからぱっぱっぱと。


淀川―今度はヤクザの悲劇をやろうとか、そういう風には考えないの?シーンが先に出て来るの?


北野―いちばんいいなぁってシーンが先にありますね。それを中心に後をつけていく。3番目のシーンが先に出て来て、あとで他のところを考えたり。『ソナチネ』は頭の中にあったのは、エレベーターの撃ち合いと、海で相撲撮ってる映像、この2つだけですね。この海は沖縄だから、とりあえず沖縄行っちゃおうと。ワンシーンばかり先行しちゃいますね。

キネマ旬報フィルムメーカーズ[2]北野武

さらに『アウトレイジ』公開前にはこんなことも

鶴瓶―殺し方なんぼほど知ってんねんいうことですよね。


北野―あれはね、変な話ね、映画作る時ね、ヤクザ映画って決まってるじゃない、殴り方とか殺し方とか、まずどうやって殺すかというのをばっか二年くらいずーっと考えて、殺し方が5パターンくらい出来たら、それに合わした台本書き出したもん(笑)


IMALU―じゃあ、殺し方から決まったってことですか?


北野―そうそう。それの殺し方をするように台本書いたから、そこから逆算したみたいなところがあって

6月11日放送TBS「A-Studio」

この二つの話から分かるように北野武はストーリーを語ることに趣をおいてはいないと思われる。映画でこういう絵が撮りたいという想いがストーリーを牽引していく。故に、現場でアイデアが浮かぶと脚本そっちのけで絵を押さえることを率先することもよくあるようだ、役者のセリフも当日に変更されるというのは当たり前だとか。

北野武のこういう絵が撮りたい!というワンシークエンスは映画において、ポエム的な役割を果たしていた。ストーリーには直接関係ないんだけど、作品を形成するための必然性はあって、これがあるからこそ北野武は世界のキタノになったと言っても過言ではない。歩き続ける刑事、バードパラダイス、紙相撲、二人乗りの自転車、ゆっくり落ちていく紙飛行機――――あくまで感覚によるものなのだが、日本人シェフがフレンチをグルメなフランス人に振る舞うように北野武は映画を撮り続けた。故に敷居が高く、日本人の口には合わなかったというところもある。

ところが今回はストーリーに必然性があるシーンを撮りたいという欲求からスタートしているので、一番のヒット作である『座頭市』以上にヒネリが効いてて、口当たりがよかった。

アウトレイジ』を一言で表せば、裏切って、裏切って、裏切って、殺して、殺して、殺しまくるだけの二時間。出演者全員が主演で脇役というのは『3-4X10月』を彷彿とさせるが、これに『BROTHER』のバカヤローコノヤローテンションが合わさったような作品だった。全員が主役ではないというユニークな群像劇なので、誰が死んで、誰が生き残るか絶対に分からない。必要最低限の演出で何が起こってるのかをきっちりと分からせ、予想も付かない展開が次から次へとやってきてスピード感もある。ヤクザが仁義もへったくれもなく、金と権力のためにバカヤロー!コノヤロー!と言いまくるだけというのも潔かった。何が詫びだコノヤロー!おめぇ黙ってんのかよこのやろー!道具持ってこいコノヤロー!てめーいったい誰に向かって喋ってんだコノヤロー!逮捕するぞこのやろー!

北野組初参戦となった個々の役者達の演技は賛否両論あるようだが、ぼく個人の意見としては全員が楽しそうに演じているのがビシビシ伝わった。メジャー感もあったし、ぶっちゃけ演技のアンサンブルだけで見れるようなところもあったくらいだ。

加瀬亮の演技がフィーチャーされているようだが、塚本晋也監督の『玉虫』でヤクザ役を『カクト』でブチ切れ演技をすでに見ていたので、これくらいはやるだろうと予想してたようなところもある。加瀬きゅんは出来る子なんですよ!みなさん!なので、ぼくがグッと来たのは三浦友和椎名桔平だった。あと役者ビートたけしは今までの映画の中で一番眼力が鋭くて、ほぼ笑顔を見せない役だっただけに一番怖かった。

全員悪人というキャッチコピーのように、昔気質のヤクザは映画の中では三人しかおらず、それ以外は基本的に二枚舌で裏がある悪いヤツばかり。特に「死ぬはずだった男が死に場所を探し求めて無茶苦茶する」というキャラクターが出て来ることが多かったが、今作では『グラントリノ』よろしく、別な方法を選択するというのも興味深かった。まぁ、これは伏線だったりするんだけど。

アウトレイジ』は間も絵もやっぱりどこかフレンチなんだけど、ちゃんと日本人好みの味付けがされた陰惨な暴力と裏切りのフルコース。しかもデザートで終わず、締めにグラッパをいただく感じ。痛いのが苦手な人はちょっとアレかもしれないが、おすすめです。あういぇ。

*1:日曜の夜にサヨナラサヨナラサヨナラって言ってた人