シネコンで名作が見れない理由(推測)と『鉄男 THE BULLET MAN』

『鉄男 THE BULLET MAN』鑑賞。

名画座が無い地方の映画ファンなら一度くらいはこういうことを思うんじゃないだろうか。

シネコンってあれだけスクリーンあるんだからさぁ、一つくらい名画座みたいにして、名作やりゃいいじゃん」

ところがシネコンで名作をかけるのはかなり難しい問題なんじゃないかなぁと思う。

あまりそのへんについては詳しくないんで、半分推測まじりで書くが、一つは金の問題。基本的に名作のフィルムというのはかなり高額で、普通の映画より高いと聞く。なので「午前十時の映画祭」のように会社全体で借りて、それを全国のシネコンで巡回させないと成立しないのではないだろうか。各県でタイムスケジュールが違うのもそれが理由だと思う。

もう一つは採算性だ。シネコンというのは、映画のチケット代だけでは運営が出来ないというのは良く聞く話だと思うが、それは本当で、しかもグッズ/パンフ以外での売り上げがないとシネコンは成り立たない。ポップコーンやドリンクが異様に高く、持ち込みを禁じているのはそれが大きな理由である。

昨今、カップルや家族向け、高校生をターゲットにした映画が多いのは、彼らは映画ファンよりもポップコーンやドリンクを買う確立が高いからで、映画好きな人は月に何本も見るために、売店に立ち寄らないことが多い。

簡単にいうとシネコンで名作がかかりにくいのは、高い金出して投資しても、それを回収するのがかなり難しいからなんだと思う。*1


こんなことをぼんやりと考えて『鉄男 THE BULLET MAN』を観たら、ああそうか、こういう方法でなら出来るのかと思った。リバイバル上映が難しいなら、新作としてもう一度公開しちゃえ!という意味でだ。


『鉄男』は言わずと知れた名作中の名作で、特にストーリーに明確な説明があるわけでもなく、ただただ鉄に浸食されていく男を描いた作品である。強烈な画と音を全身で体感するタイプの作品だと認識していて、塚本晋也監督自身「映画は絵が汚くても、音が良くないとお客さんの集中が続かない」と語っているように、かなり音響効果が重要で、映画館で観たい作品の一つであった。

『鉄男 THE BULLET MAN』は塚本晋也自身が続編ではなく新たな『鉄男』として作り上げた作品だが、これがずばり新しい観客に媚びるわけでもなく、CGを多用するわけでもなく、ちゃんとハンドメイドで『鉄男』そのものを再び作り上げた。確かに外人である必要性はないし、英語じゃなくてもいいと思うが、それでも『鉄男』は『鉄男』なんだなぁと感動した。

モノトーンのような色合い、全身を映さずに極端な画の切り取り方をする映像とブレブレのカメラに音楽がかぶさり、鉄に浸食されて行く男が敵をバカスカとぶち殺していくさまは痛快そのもの。「なんかよく分からないけど、きっととんでもない陰謀がうごめいている」ということを絶妙なサジ加減で提示してくるのも見事。さらに家では絶対に味わえない爆音!爆音!爆音!ガシャーン!ドカーン!ギュイーン!ドガガガガ!!!ドーン!ドーン!――――ぼくは充分に『鉄男』を体感させてもらった。むしろこれ以上『鉄男』に何を望もうか。

川崎の方では爆音上映だったらしく、それがとても良かったらしいのだが、今回新潟で観た時もかなりの爆音で音響には満足だった。押井守は「映画というのは半分が音だから」と公言しているが、まさにその通りという印象。きっと映写の人も思い入れがあったに違いなかろう。

というわけで、こういう方法でならセルフリメイクもアリなんじゃないかなぁと思った。あの衝撃をもう一度!という意味でも、作品としてもとても重要な一本。必見だ。あういぇ。


あ、書くの忘れてた、doyさんも↓で書かれているが、ラストはちょっと……『東京フィスト』や『バレット・バレエ』の監督だぜ。あそこで素通りはないでしょうに。まぁ、そんな時代なのかもねぇ。


関連サイト

元祖『アイアンマン』 - 『鉄男 THE BULLET MAN』
http://d.hatena.ne.jp/doy/20100615#p1

鉄男 [DVD]

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鉄男II/BODY HAMMER SUPER REMIX VERSION [DVD]

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*1:じゃあ、なんで名画座は成立するんだよ!と言われそうだが……た、たぶん、人件費や家賃などがシネコンよりもかからないからだと……