ベッソンのニューヒロイン、ミイラを巡ってさぁ大変!

『アデル/ファラオと復活の秘薬』鑑賞。14日はシネマ感謝デーということもあり、結構人が入っていて驚いた。

リュック・ベッソン監督で宣材に使われてる写真やポスターを拝見すると容易に想像出来るのが“女インディ・ジョーンズ”であろう。『ジャンヌ・ダルク』や『ニキータ』のようなタフなヒロインが、男をバッタバッタとなぎ倒し、お宝を巡って洞窟やピラミッドを右往左往して、恋が芽生える……


ところが出来上がった映画は、超個人的な理由で国家を巻き込み、ドタバタと街中を引っ掻き回す女の話になっていた。いわば中規模なスケールで作られた『地下鉄のザジ』と言ったところ。


冒頭、ガイ・リッチー作品のように、カメラがグリングリン動きながら、ナレーションにのせて、ハイスピードで登場人物ひとりひとりを紹介していく。最後の最後でアデルという主人公が登場し、そこから映像は一気にエジプトにジャンプ。なんやかんやあって、アデルはインディよろしくお宝をかっさらって逃げる。アデルというキャラクターがどういう性格の持ち主で、どれだけ頭がキレ、そして度胸がすわってるかというのをエンタメの中で表現しきっていて、とても素晴らしい。


だが、想像してた女インディはここまで、パリに帰って来たと同時にこの作品はスラップスティックな展開を見せ始める。


アデルが盗んできたのはミイラで、盗んだ理由というのが、事故によって半ば植物人間と化してる妹を助けるためだった。このミイラ、実は秘薬を駆使してどんな病人でも治すことが出来る医者で、このミイラを復活させれば妹は助かるんじゃないかとアデルは考えた。

ところがである。アデルがミイラを盗んでる間、パリでは博物館に寄贈されていた翼竜の卵が孵化し、その翼竜が元知事を襲うという事件が発生。太古の生物を復活させることが出来る科学者が事件を引き起こしたとして、逮捕されてしまうのだ!

アデルとしてはその科学者がいなければ、ミイラも復活しない!ミイラが復活しなければ、妹も助けられない!さぁ大変!どうするアデル!――――というのが基本的な映画のプロットである。

TAXi2』の「ニンジャー!」みたいなベタなお笑いが随所に差し込まれ、さらにつじつま合わせも気にせずに強引に進んでいくもんだから、細かい所で気になる点は山ほど出て来る。特に半径2km以内なら効力があるってところはさすがに無理がある気が……

結局、最終的な映画のトーンは感動もなく、ハラハラもないままガラリと変わるが、ハッキリ言って、今書いたようにストーリー自体は映画的でとてもおもしろい。そもそも翼竜が人を襲う中で科学者を助けようとし、さらにミイラまで復活させようというんだから、ある意味で大盤振る舞いである。

そして、やはりアデルを演じたルイーズ・ブルゴワンがすこぶる魅力的だ。ゴダールアンナ・カリーナをいろんな角度から撮りたかったように、ベッソンもアデルを様々な角度で撮り続ける。横顔はもちろん、真っ正面からクローズアップを多用したり、コスプレさせたり、あげくの果てには素っ裸にまでさせる。


というわけで、きちんとした五角形ではなく、とんでもなく歪な形になった冒険活劇だが、正直、アデルの美しさもあって、個人的にはとても楽しんだ。続編を匂わせる終わり方であったが、もしあの終わり方であの続きが観れるのならば、素直に観たいと思える。基本的に完成度は低いが、ベッソンはとにかくヒロインを輝かせる手腕には長けてるのかもしれない。あういぇ。