団塊世代の「若者」はもう“老人の詩”を笑えない

吉田拓郎の曲で“老人の詩”というのがある。

まだよしだたくろう名義だった頃の曲で、歌詞を検索したところ、どこにも引っかからず、なんでたと思っていたら、非公式の楽曲だったんだと気づいた。

収録されているのは「よしだたくろう・オン・ステージ!!ともだち」というアルバム。ライブアルバムという概念がそれほど日本にはなかった時に発売されてヒットしたのだが、デビューシングルも含め、本人に無許可で発売してしまったことに激怒した拓郎がレコード会社を移籍。さらにエレック自体が倒産したこともあって、権利関係がぐちゃぐちゃになり長らく幻の名盤扱いだった。数年前にしれーっとCDが発売されたのだが、噂によると、このアルバムの発売/ヒットの経緯を拓郎本人が気に入っておらず、今はまた廃盤になっているようである。がんこものー!

さて、この“老人の詩”は、よしだたくろうの“青春の詩”を替え歌にして自ら歌ってるもので、このステージでバックを務めた友人の井口よしのりという方が作詞されている。それにしても、自分の歌の替え歌を自分で歌うとはなんという歌い手さんなのだろうか。

ライブ音源なので、ステージの流れもそのまま収録されているのだが、流れとしては、軽く“青春の詩”の歌い出しを歌い、“青春の詩”はこういう歌なんですよという説明があった後で“老人の詩”を歌い出す。

“青春の詩”の歌い出しは「喫茶店に彼女と二人で入って コーヒーを注文すること ああ それが青春」なのだが、これが“老人の詩”になると「喫茶店にばあちゃんと二人で入って しぶ茶を注文すること ああ それが老人」となる。一事が万事こんな感じで、「青春あるある」だった“青春の詩”が「老人あるある」になるのだ。

youtubeの音源を聴いてもらうと分かるが、当時拓郎は25歳。恐らく客層は同年代から下の「若者」だと思われる。ライブ音源なので、客の声も収録されているのだが、当然みんな“老人の詩”を聴いて笑っている。拓郎本人もある種の冗談として、「くだらねぇなぁ」と軽く歌っているのだが、ハッとさせられたのが、この曲の後半の歌詞だ。

さて老人とは一体何だろう その答えは 人それぞれで違うだろう
ただひとつこれだけは言えるだろう 老人は僕達より時間が少ない
老人は余命いくばくもない 若者があと30年生きるなら
老人はあと1、2年しか生きられないだろう
この貴重なひとときを老人は 何かをしないではいられない
この貴重なひとときを老人は 壮年と呼んでもいいだろう
壮年期は二度とはかえってこない 皆さん年寄りを……
今 このひとときも わしの壮年期

この部分は元の“青春の詩”でも一番突き刺さるようなメッセージ性を帯びているので、当然ながらライブでも一番盛り上がり、大きな笑いが起きるのだが、今彼らははたしてこの曲を聴いて笑えるのだろうか。

当時「若者」だった彼らは団塊の世代と呼ばれ、もう「老人」に近づいている。“青春の詩”や“ああ青春”なんかを歌っていた拓郎も64歳だ。どちらかというと、今の拓郎ファンはネタとして作られた曲の方にシンパシーを感じるのではないだろうか。

確かにニュースでは高齢化社会やら、老人の孤独死などがやたらと取り上げられるし、介護問題なども、山ほどみるが、その反面やたらと元気な年寄りを町で見かけることが多くなった気がする。

映画館に行っても、作品によっては老人ばかりだし、「上映時間が電話で聞いた時と違う!」なんつって、死んじゃうんじゃないかと思うくらいわめき倒すジジイも見るし、朝からカラオケは演歌を歌う老人で占拠され、こないだは「こんなに高いコップを乗せて運んだからこぼれちゃったじゃないの!」とクレームをつけてるババアを見た。バイト先の後輩とコンビニに行ったときなんかは、そのコンビニの前でタバコを吸いながら酒を飲み、ぶつくさ言ってるジジイも見かけた。ある意味で世も末である。

「若者」が血気盛んだった時代だからこそ“青春の詩”が支持されたように、これからは間違いなく、老人が血気盛んな老人の時代になる。そう考えると、この非公式音源である“老人の詩”はこれから再評価される日も近いのではないかなぁと思う。むしろ「老人の気持ちを代弁している!」として、彼らを象徴するような楽曲にもなりかねない。

吉田拓郎――――彼は日本音楽界のパイオニアであり、これからもトップを走り続けるのだ。「若者」だった「老人」を引き連れて………あういぇ。

【参考】

青春の詩 歌詞
http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND37597/index.html

よしだたくろう・オン・ステージ!!ともだち

よしだたくろう・オン・ステージ!!ともだち


【関連ニュースやサイト】
「優先席譲って」老人が過激行動、中国のネットでは若者に批判集中。
http://www.narinari.com/Nd/20100713935.html

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