飛べない竜はただの竜?『ヒックとドラゴン』

ヒックとドラゴン』鑑賞。

参った!痺れた!泣けた!もうオレ人間嫌い!ドラゴンになりたい!火吹きたい!

種族の異なった者同士が互いを本当に必要として繋がり合うというテーマや飛行シーンの見事さなど宮崎アニメを彷彿とさせるモチーフが度々見られるが、それをドラゴン退治のために生まれて来たバイキング一族という設定にしたことで見事に払拭。それだけじゃなく、主人公とドラゴン、父と戦友という二組が織りなすバディムービーであり、子が父を乗り越える話でもあり、怪獣映画でもあり、ボンクラが自分なりの筋を通し、ボンクラにしか出来ないやり方で戦いを挑むという話でもある。

各キャラクターの表情の豊かさに趣を置いた演出は余計な説明を加えることなく心情を深く掘り下げることに成功しているし、その繊細さと対照的に合戦シーンや飛行シーンなどはキレキレのカメラワークで捉えるなど、全編映画でしか体験出来ない感動に満ちあふれている。CGによる質感表現も抜きん出ていて、特にバイキングの髭や海の質感は本物と見紛うばかり。

ストーリーに関してもアメリカそのものに置き換えれば、歴史から戦争観まで多種多様な解釈が可能になっているし、何よりも必要不可欠な描写がものすごく丹念でそれが間延びしてないために、主人公たちの絆の深さみたいなものがこちらにもグングン伝わって来て泣けた。冒頭で主人公のナレーションで世界観の説明が一気になされるんだけど、エンディングがその冒頭と対になっており、そのへんの構成もうまいなぁと思った。

なんと言っても、主人公がバイキングというマッチョな世界ではうだつのあがらないボンクラで、ドラゴン退治の才能などひとかけらもないという設定がとにかく素晴らしい。そうすると大概は何かの能力に長けていて、それだけを使ってのし上がるという風になるのだが、この映画では、とにかく鍛冶屋に勤めてて、優しい以外何の取り柄もない。深読みすれば、現代のアメリカは自ら何かを作ることをしなくなり「優しさ」とか「人を思いやる気持ちがない」とかそういうメッセージが込められてるのかもしれない……ん?もしや『くもりときどきミートボール』に続いてここでもグラトリ魂が……

とにかくここに書いた以外の様々な要素もたっぷりで観る人によってはいろんな見方が出来る傑作。昨年は『くもりときどきミートボール』がCGアニメではぶっちぎりだったのだが、今年は『ヒックとドラゴン』で決まりかもしれない、必見だ!あういぇ。