“Daydream Believer”と『ペット・サウンズ』


20世紀のベストソングといわれると、それこそ『Let It Be』とか『Like A Rolling Stone』とか『Your Song』とか『We Will Rock You』とか他にもいろいろあるんだろうけど(というか、パッと思いついたのがこの4曲ってのもどうかと)、ぼくが1曲だけ選ぶとするとモンキーズの『Daydream Believer』になる。

というか、これ知らないって人いるのだろうか?日本でも忌野清志郎山崎まさよし少年ナイフなどがカバーしている屈指の名曲で、いくら「若いから」とか「世代じゃない」と言っても、さすがにこれは聞いたことあるだろう。聞いたことないなんて言わせないぞ、最近もビールのCMで使われてたやん。

発売されたのは67年。かなり古い曲になるわけだが、今聞いても色あせることはない。いや、「色あせることのない名曲」というのはよく使われる常套句だが、『Daydream Believer』はその中でもトップクラスというか、いつ聞いてもキラキラしていて、まるで永遠の処女であるかのような底なしのエヴァーグリーンである。しかも聴くだけで心がウキウキするようなポップ感、聴いた瞬間から耳コピが出来るくらい簡単でしかもメロディはこれしかないだろってくらいキャッチー。それこそ子供から大人まで歌える世界最高レベルのアンセムだと断言していい。

似てる雰囲気という意味ではコーデッツの『ロリポップ』になるんだろうが、なぜ、『スタンド・バイ・ミー』に『Daydream Believer』が使われなかったのか不思議でならない。歌詞の内容からいっても、小説家を夢見て、現実から逃げ出すように小学生の最後の夏に旅に出た少年の心情と合ってる気がしたのだが――――

さて、ぼくは音源を持ってなかったのでちょっと前にiTunesでダウンロードした。そこでまともに聴いて、非常に似てる曲を思い出した。それがビーチ・ボーイズの『Wouldn't It Be Nice』である。影響があったかどうかについて、それを明確に示す資料が手元にないし、ネットにもそういう情報が出てないので、確固たる根拠は無いが、さっきも書いたように『Daydream Believer』の発売は67年、『Wouldn't It Be Nice』が収録されたアルバム『ペット・サウンズ』が発売されたのは66年で、その年数の近さからいっても、影響は強いんじゃないかと推測する。

出だしやベースの感じまでかなり似ているが、『Wouldn't It Be Nice』だけでなく、『ペット・サウンズ』全体の雰囲気が『Daydream Believer』にはある。ブラスの使い方は『God Only Knows』っぽいし、目覚ましの音なども、自転車のベルを使った『You Still Believe In Me』と酷似している(ビートルズの『A Day In The Life』の方に影響を受けたとも言えるが)。

これは憶測でしかないが、もし『Daydream Believer』が『ペット・サウンズ』に影響を受けてるとなると、意外だと思ってしまう。何故ならば当時『ペット・サウンズ』は失敗作と見なされていたからだ。

今でこそ『ペット・サウンズ』は「コンセプト・アルバムの先駆け」「ロック史に刻まれる最高傑作」などと言われているが、発売した当時の評価は異常と呼べるほど低く、特にアメリカでは10位までチャートを伸ばしたものの、ゴールドディスク続きだったアルバムの記録をつぶしてしまった(当時、レコードと言えばシングル盤が当たり前であり、LPが爆発的に売れたのは、ビートルズストーンズビーチボーイズくらいだった)。さらにその後にシングルで切った曲が惨敗。ポール・マッカートニージョージ・マーティンが「今まで聴いた中で最高の曲」という賛辞を贈った『God Only Knows』に至っては、なんと最高で39位にしかなっていない。『Sloop John B』は3位というヒットになったが、これはカバーであり、しかも当初アルバムに収録する気はなかった。

そもそも『Surfin' U.S.A』を求めてるファンにとって、『ペット・サウンズ』の変化には戸惑いがあったはずだ。それはミスチルの『深海』なんてもんじゃなかったとぼくは想像する。ビートルズは『ペット・サウンズ』に影響されて『サージェント・ペパー』を作ったと公言しているが、それこそホントに一部の音楽好きや一部の評論家の間でしか評価されなかったアルバムが『ペット・サウンズ』なのである。

ぼくは一枚だけアルバムを選べと言われれば迷う事なく『ペット・サウンズ』を選ぶんだけども、確かに冷静に聴くと『ペット・サウンズ』はとっつきにくいアルバムだと思う。変拍子もあって、ギターは隠し味程度に鳴ってて、メロディは突き抜けておらず、ベースラインは独特のうねりを聞かせている。エコーを飛び切り利かせた音像、ブラスやホーンセクション、電車の音や自転車のベルなどのSEをメインにしたアレンジは当時誰も行っていなかったので、奇妙に感じられるだろう。ところが、ギターがあまり鳴ってないおかげで時代性がまず消えた、しかもホーンやブラス、ストリングスを多様したおかげで、クラシックになった、メロディが突き抜けてないぶん、何度聞いても飽きのこないものになってて、とっつきにくい分、良さが分かった時の感動はひとしおだと思う。それらの技のおかげで『ペット・サウンズ』に時代が追いついて来たのだと勝手にぼくは思う。

この発売された当時、評価が低かった『ペット・サウンズ』に『Daydream Believer』を作成した作曲家やアレンジャーが影響を受けてるとしたら実に興味深い。『Daydream Believer』には確かに『ペット・サウンズ』を感じるが、そこまでマニアックではない。それこそ丸パクリではなくて、いい具合にまた調理しなおしている。ストリングスもブラスもホーンも全面に押し出してあって、SEも彼方に聞こえて邪魔していない。さらにピアノと手拍子が独自のグルーヴを作っていて、その辺もエヴァーグリーンに感じる要因だろう。

モンキーズは元々ビートルズに対抗するために作られたアイドル的なグループであって、ヒット曲もあるものの、ビートルズストーンズに比べると音楽史に置ける位置づけはかなり低い。それでもビートルズと同時期にビーチ・ボーイズのすごさに気づいて、あれだけの名曲にたどり着いたのだから、その音楽性は信用出来るだろう。て言っても、ブレーンは他に居るんだけど。

『Daydream Believer』が『ペット・サウンズ』に影響受けたかどうかは分からないが、あの時代にビートルズと競ってこれだけの名曲が生まれた事は事実であり、それが未だに歌い継がれてるというのは音楽界の奇跡だ。ぼくはそういうところも含めてこれからも『Daydream Believer』を聴き続けるだろう、あういぇ。

ここまで書いておいてなんだけど、ホントになんの根拠もない妄想だけの長文になったなぁ――――

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