アメリカ人の生涯に二幕目はない『バード』

『バード』をDVDで鑑賞。NHKで再放送していた『スコラ 坂本龍一音楽の学校』のジャズ編を観て、思いっきり感化されてレンタル。

十代の頃にチャーリー・パーカーの演奏を観て衝撃を受け、その後ピアノの弾き語りのバイトも経験したことのあるイーストウッド念願の企画として制作された作品。

わざわざ40年代に録音されたチャーリーの演奏を抜きだし、現代の演奏にくっつけるなどサウンドだけでも並々ならぬこだわりがうかがえる。それだけでなく、カメラは絶えず上に下に横にと動き続け、長回しを多用したり、会話シーンでは早いカットで切り返すなど映像も今日のイーストウッド作品らしからぬリキの入れよう。特にチャーリーが死の間際に見る走馬灯の表現は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』を彷彿とさせる(他にも『ウエスタン』と同じカメラワークのシーンもあり)。音楽や映像だけではなく、展開も時間軸がずれまくっており、細々したエピソードをブツ切れに繋げ、まっすぐ進んでいかない。

これだけ凝りに凝っているのだが、おもしろいのは、この映画はまったくドラマティックではないということだ。意識的に盛り上がらないように演出してるように思える。

そもそも、ジャズ界の大天才であったチャーリー・パーカーは、波乱に満ちた生涯を送った人物である。ジャズにビバップという革命を起こし、フリージャズか!?と思うくらいの速さで和音を構成したアドリブは伝説として未だに語り継がれている。プレイヤーとして一流だったが、ヤク中のアル中で、娘を肺炎で亡くしてからは二度の自殺未遂、精神病院への入院。心臓と肝臓がボロボロだった彼は34歳の若さで亡くなるが、そのときの医者に58歳と思われるくらい老け込んでいた。まさにジャズ界のロバート・ジョンソンである。

これだけ書くと、すさまじいエピソードが山積みにされてるように思うが、映画は至って平坦に進んで行くのだ。精神を病んでもヤクで逮捕されても時間軸がずれたり、保釈したシーンから始まったりして、意外とさらっと何事もなかったかのように進んで行く。ところが映画は2時間40分の長尺で、まさにチャーリーの人生のダイジェスト版といった具合。ダークサイトはあまり映らないが彼の人生に女がどんな影響を及ぼしていたのか?そして仲間がどのように彼と接していたのか?を中心に描いている。恐らくイーストウッド自身がチャーリーを描く時に彼のダークサイドはいらないと判断したんだろう。

その代わりにことさら魅力的に描かれているのはチャーリーの演奏シーンである。じっくりと長いカットを使い、しっかりと演奏してる様、表情を映し出す。チャーリーを演じたフォレスト・ウィテカーの魅力的な風体も相まって、いくつかの演奏シーンはしっかりとクライマックスになっている。ハッキリ言うと『バード』はチャーリー・パーカーという男がいかに音楽家として魅力があったか?の一点だけに集中していると言って良い。

というわけで、あまり盛り上がらない展開を見せるのでイーストウッドの監督作としては異色な出来だと思われるが、傑作。最近イーストウッド映画に触れた人もこの機会に観てもいいかも。サントラも絶対に聴きたくなった。あういぇ。

参考URL:http://www3.ocn.ne.jp/~zip2000/charlie-parker.htm

バード [DVD]

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