ノンストップバイオレンスアクションノベル!『ダブル』

『ダブル』読了。深町秋生待望の新刊。発売は9月24日だが、Amazonで注文したら何故か23日に届いたのだった。

ダブル

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いやはやとてつもない小説である。当然のごとく一気読みしてしまった。多面体な魅力を持った作品ながら、尋常じゃないスピード感でラストまで駆け抜けて行く。描くべきところとそうじゃないところをしっかりと見据えたうえでの展開だと思うのだが、物語の本筋に至るまでのパートが100ページ以上あるにもかかわらず、その序章の時点で興奮を抑えられないほどのおもしろさだ。

近未来。覚せい剤よりも安価で同等の効果が得られるドラッグ、CJ(クールジュピター)が日本で急速に広まった。その密売に成功した巨大組織に属している苅田誠次は組織きっての武闘派だが、ブツに手を出してはならないという掟を破った弟を守ろうとしたために元恋人と弟を惨殺され、自身も瀕死の重傷を負う。苅田は復讐を誓い、警察と手を組んで整形によって顔も声も変え古巣に戻る。だが、そこで声をかけてくれたのがかつての戦友。さらに組織のボスも姿を消していた…

しぶしぶ警察に協力しながら、かつていた組織に戻るというのは『男たちの挽歌II』だし、顔を変えるというのは『フェイス/オフ』で『インファナル・アフェア』のような駆け引きと、作者が語る通り香港映画からかなりインスパイアされた作品だが、それは香り程度であり、味はしっかりと日本の味付けになっている。個人的にはジョン・ウージョニー・トーはもちろんのこと、『コインロッカーベイビーズ』や『ミラーズ・クロッシング』『アウトレイジ』をも彷彿とさせた。

組織に追われるという前半から、自分を最もよく知る戦友の近くで正体がバレてはならないという後半、さらに巨大過ぎる組織に成長してしまったせいで、つねにイヌが入り込み、誰かが裏切り、誰かに狙われているという設定のおかげで全編異様な緊張感に満ち溢れており、これでもか!という見せ場の連発と心理戦の応酬、そしてスケールの大きいアクションと、ちっとも飽きさせない。

各キャラクターの視点でチャプターが進むわけだが、これにちっとも違和感を感じないし、女性も登場するのだが、これが愛情でも友情でもなく仁義として扱われるのが大きな特徴で、これは石井隆も描かなかった独特の世界観である。特に、苅田とその女性が、絶体絶命のピンチを迎えながら、目だけで会話するシーンは『男たちの挽歌II』に匹敵するほどの高揚感で、映画でもここまでの感動にはならなかっただろう。それだけでなく、最終的に『ダークナイト』のような“お前はオレと似ている”的押し問答や『ブレードランナー』のようなヒリヒリする対決もあって、最後の最後までホントに気が抜けない作品になっている。

個人的に前半、元恋人との関係性をそこまで描けてないなぁと感じたが、それも最後に納得させるような細かな伏線もお見事。暴力描写も今までの作品に比べれば幾分ライトになっているので(それでも噴出はしまくりなのだが)、その手のものが苦手な方にもおすすめ。男の熱い友情と男女の仁義、組織の中でしか生きれなかった男の挽歌に燃える傑作。必読だ!あういぇ。

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あ、そうそう、あとこれ二回楽しめる小説なのよね。うふふふ……