キャメロン・ディアスの“寝ても覚めても”『ナイト&デイ』

『ナイト&デイ』鑑賞。結構人が入ってました。さすがトムクル&キャメロンである。

BUMP OF CHICKENの代表曲のひとつに“K”という曲がある。

ホーリーナイト(聖なる夜)と名付けられた黒猫が主人公で、石を投げつけられるほど気味の悪い黒猫なのだが、そんな自分のことを拾ってかわいがってくれた売れない絵描きとの友情を描いている。黒い猫の絵ばっかり書いていたせいで、その絵描きは貧しさ故に喰えなくなり、そのまま死んでしまったので、その死んでしまった飼い主のために恋人に向けた手紙を遠いところまで口にくわえて運ぶという、児童文学のようなストーリーテリングの楽曲だ。

まぁ、正直喰えなくなるまで絵を書くなよとか、猫が手紙をくわえて遠い街まで走るか!?などという疑問点はあるが、この楽曲に驚かされたのは最後のオチだ。

黒猫はホーリーナイト(聖なる夜)という名前なのだが、恋人に手紙を届けることが出来た黒猫は力つきてその場で死んでしまう。その姿を見た恋人はその猫の名前にアルファベットひとつ付けて、庭に埋める――――そう、それはタイトルにもなってるアルファベット“K”だ。HOLY NIGHTにKを付けてHOLY KNIGHTとし、“聖なる騎士”として庭に埋めたのである。

『ナイト&デイ』のナイトも夜ではなく“K”が付く騎士の方のナイトだ。ところがこの騎士はヒロインを眠らせては、半日以上またいで別の場所へと誘う奇妙な騎士でもある。

ヴィンテージカーに造詣が深いキャメロンは、車のパーツを買った後、妹の結婚式のためにボストンへと向かおうとしていた。ところがその空港内で偶然ぶつかったトム・クルーズと席の近い飛行機に乗り合わせ、運命の出会いを果たしたと思い、心躍らせる。機内の異常な揺れのせいで飲んでたお酒をこぼしたキャメロンはすぐさまトイレに、トイレの中でなんとしても彼をゲットするのよと化粧直しをすませて、外へ出ると、飛行機の中は死体だらけで、パイロットも死んでいた……

こうやって書くとまるでホラー映画のようだが、基本的に映画は『トゥルー・ライズ』を彷彿とさせるライトなアクションコメディといった具合。トム・クルーズがスパイを演じ大ヒットになった『ミッション・インポッシブル』の役を大胆にパロディ化し、激しく動く車の上で銃をバンバン撃ちながらとぼけた会話をするなど、無敵のスパイをクスっと笑わせるアイテムとして使っている。見せ場となるアクションシーンを全体に散りばめることで、飽きさせずにテンポ良く進んでいくのだが、このテンポの良さが今作では若干仇となっている。

というのも、この『ナイト&デイ』は、アクションシーンが終わったあとに別の場所へ移動するというところで、物語の視点となっているキャメロン・ディアスを薬で眠らせ、そのシーンを省略してしまうという大胆な演出を行ってるからだ。

というか、ちょっと待て――――それって反則じゃね??だって、そういう描くのが大変なところをみなさん苦労して脚本で練ったりしてるのに!?!?

特に一番すごかったのが、とある組織に拉致される瞬間にキャメロン・ディアスに薬を飲ませるところ。眠っているので断片的な記憶しか残っておらず、映画でもそれが映るわけなのだが、キャメロンが眠らされてる横でトム・クルーズが逆さに吊るされ、次のカットでは吊るされてるところから脱出し、次のカットではいきなりスカイダイビングをさせられ、最終的に目覚めるとどっかの島で水着になっているのである。

実はこの眠らせて次の場所に移動という演出が最終的に気の効いたオチにつながっていくわけだが、この中盤に出て来る眠らされシーンを全部まるまる映像化した方が見せ場がてんこ盛りだったんじゃないのかと思ってしまうくらいだ。トム・クルーズは拉致されて逆さ吊りにされた後、なんらかの方法でそこから抜け出し、キャメロン・ディアスを抱きかかえながら拉致現場を脱出し、ヘリコプターを奪って、キャメロン・ディアスを抱きかかえながらスカイダイビング。島に着いたキャメロンを脱がせて、寝てる間に水着を着せ、自分は魚を捕まえ焼こうとするのである。なんという凄腕のスパイだろう。こんなのはどの映画でも観たことがないくらいだ。うーん。文字に起こしただけでもこっちの方がよっぽど見たい!!

まぁ、そうは言いながらも、トム・クルーズキャメロン・ディアスという息のあったスター同士がノリノリで演じてるのが観られるだけでも楽しめることは必至である。巻き込まれ型のストーリーテリングにしては説明不足のまま尋常じゃないスピードで突っ走っていくので、正直、全体で何が起こって、トム・クルーズはなんのためにあんなことをしたのか今ひとつ理解してなかったりもするのだ。まさに見終わった側から何も残らないポップコーンムービーと言えよう。

ちなみにタイトルの元になっているNight And Dayは訳すと「寝ても覚めても寝ても覚めてもキャメロンは安全に危険を味わうことが出来、そして観客もそれを共有し、さらに騎士が寝ても覚めても側にいてくれるという、ホントにタイトルが示す通りの映画になっていたのであった、あういぇ。