純化された作家性の中で『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』

『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』をレンタルDVDにて鑑賞。

マジ悶絶級のミラクル大傑作!すごい!ホントにすごい!やったぜジョニー・トー!あんたはホントに偉い!

ざっくりあらすじを書くと、娘とその夫、さらに孫たちを殺されてしまった男が、偶然街で出会った殺し屋たちに復讐の手助けをするように依頼する。犯人探しをし始めるも、復讐を依頼した男にはとある理由でタイムリミットがあり、そして犯人は意外な人物だった…というもの。

ジョニー・トー監督の『エグザイル/絆』は去年のぼくのベストワンだったのだが(新潟では遅れて劇場公開された)、『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』もそれに匹敵するすさまじい作品であった。

説明的なセリフはざっくり削られ、ボディアクションも最小限に抑えられ、ストーリーも至ってシンプルという究極のミニマリズムで撮られた香港ノワール。映画の表現としては実に繊細で『エグザイル/絆』を観た時に「これはエイゼンシュタインを彷彿させる映画芸術の原点回帰」と評したのだが、今作ではそれをさらに突き詰め、『エグザイル/絆』にはあったケレン味や、アナーキーさと言った香港映画特有の持ち味もガリガリ削り取り、ジョニー・トーがもっとも得意とする世界をミルクパンでグツグツ煮詰めて、極限まで純化させたような作品になっている。

理屈をこね回して書いたが、まぁ単純にいうとジョン・ウーが『狼/男たちの挽歌・最終章』を撮ったときのような感動と興奮がそこにあった。純化された作家性が全面に押し出されてるにもかかわらず映画はすこぶるエンターテインメントしていて、難解な部分はひとつもない。さらにフランスから役者を呼び寄せたことで、カルトの枠に収まらない大衆性も会得しているのだ。こんなすごすぎる映画があっていいのだろうか。やばい。本当にジョニー・トーはやばい。やばすぎる。

友情や絆は長い年月をかけて作られるわけではない。男たちは銃を手にし、お手製パスタを食べながらワインを飲みかわすことによって一瞬で親友となる。この感覚はこの映画そのものに感じる感覚なのかもしれない。実際100分ちょいの間に観客は彼らと一緒に戦っているような気分になり、彼らの仲間になりたいと心の底から思い、そして涙するのだ。よかった…男で本当によかった……

中盤、アンソニー・ウォンが最高の笑みを浮かべて死地に向っていくのだが、ここは『ワイルドバンチ』で、泣きのポイントが早くないか!?と思ったところ、後半はなんと主人公が『ガルシアの首』よろしく、「でも、やるんだよ」の精神で敵地に乗り込んで行く……ぐすん。

銃を組み立てるゲームは『狼は天使の匂い』であり、スローモーションを駆使しながらも立ったまま繰り広げる銃撃戦は『ソナチネ』を彷彿とさせるが、北野武ジョン・ウーのそれとは違った無機質かつ様式的な美しさがある。ジョニー・トー作品は食べ物が重要なモチーフになっているが、今作での公園バーベキューシーンは最大のサスペンスとアクションと映画的興奮がギッチリ詰まっていて、ここだけでも観る価値はある。

アンソニー・ウォンやラム・シューらジョニー・トー常連組の演技はあいかわらずで、初参戦となるジョニー・アリディはさすがの存在感。全員がセリフがほとんどないというのもホントに素晴らしい。

とにかくいろいろ書いたが、何も情報を入れずに観ることをおすすめする!ていうかホントにおすすめ!『エグザイル/絆』に感動した人は速攻でレンタル屋に走るべし。ちょー元気でた。明日もバイトがんばろー。あういぇ。

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を [DVD]

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エグザイル/絆 プレミアム・エディション [DVD]

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