2010年に観た映画を全部ふりかえる/その3

後半たたみかけるように観たので今回のエントリは長めです。トリロジー三部作ということでこれで最後です。今回は日本で公開されたものだけを振り返りましたが、今年は旧作を入れると166本映画を観ました。さらに昔好きだった映画なんかも見返したりしたし、数回観たのもあったし、ブルーレイで買い直したものもあるので、それも全部入れると200本くらいは行ってるかもしれません。

今年はTwitterとかの影響もあり、プライベートでもネットでも映画の話題がどんどん出来るのが嬉しくて、下半期はどんどん映画の感想だけを放り込んでしまいました。映画好きですからね!というわけでこれからもひとつよろしくお願いいたします。

9月
トイレット/ジャームッシュに連なる奇妙な共同生活映画*1。日本映画のようで日本映画じゃないような日本映画という独特のムードが良い。餃子喰いながらビール飲みたくなるね。

BECK/言うほど悪くはないし、なんつってもクライマックスのライブシーンに尽きる。ただし、その後の声無しは……

バイオハザードIVアフターライフ/今までの設定を台なしにして、ゾンビに囲まれた建物から脱出するというオーソドックスな作りになってたのはよかった。楽しい映画でしたよ。

悪人/力作。映画にしか出来ない表現を最大限活かした演出で、若手監督ながらすでに巨匠の風格すら漂う。若干物語に無理があるところもなくはないが、原作がどうも微妙らしく、そこからいけばうまい脚色だったのかもしれない。

おにいちゃんのハナビ/ナンビョーモノと言われる中で、ナンビョーモノに寄らないように、むしろ泣かせないようにする演出が歪でおもしろかった。実際にこの時の片貝まつりに言った者としては感慨深いね。

TSUNAMI/傑作。クライマックスよりも前半のドラマパートにグイグイ引き込まれた。もしこれが『TSUNAMI』というタイトルじゃなくて、内容も隠されたままだったら『ショート・カッツ』みたいな評価のされ方をしたかもしれない。

十三人の刺客/傑作。レオーネのような重厚な映像に、三隅研二や『ワイルドバンチ』を彷彿とさせる血なまぐささ、ここに三池×天願の狂ったフレーバーがたっぷり振りかけられた極上のエンターテインメント。最近の時代劇は映像が明るすぎるきらいがあってイライラしてたのだが、この映画では室内でも顔に影が出来たりして、自然光風に撮ってるのがホントにホントに素晴らしい。

10月
ラブリーボーン/ギリアムばりのファンタジックなあの世映像、死ぬところも執拗に見せつける、死体ゴロゴロのホラー描写に、ハラハラドキドキのサスペンスと倒叙ミステリー、歪な家族ドラマ、そして殺人鬼記録が渾然一体となったゴージャスでハラショーな映画。さらに映画ならではの“神の視点”ってヤツをホントに死んだ人の視点で描いてるところも新鮮だったし、全カットが絵画のようで、様々な映像テクニックでそれをしっかり映画的に見せてる。『キング・コング』や『指輪物語』よりも好きだよ。

ガフールの伝説/何がふんちゃらの冒険だよ、何がふんちゃらの伝説だよ、もう魔法が出て来てドーンとかうんざりだばかやろー!とか思ってたのに、ザック・スナイダーが撮ったということを知ってすぐさま観たが、これがホントにおもしろかった。つうか、これフクロウで『300』やっただけ。特に最後のクライマックスのバトルでのモーション感覚が尋常じゃなくて、むしろ冴え渡ってるように感じた。『300』好きな人は必見。

ナイト&デイ/寝てる時の展開の方が見たかったよ!

エクスペンダブルズ/アクションシーンのガチャガチャだけが気になるが、こういう企画の立ち上がりから燃えるぜ!みたいな映画は無条件で応援したくなるな!もうただスター三人が立ってるだけであそこまで絵が持つかねー!ってくらいで、正直、その観点からいくと、ダレるシーンはひとつもないんだよなぁ。

インシテミルホリプロ何十周年記念作品で、事務所の先輩後輩を殺しまくるという映画は思い切ったねぇ。

11月
ニンジャ・アサシン/傑作!とはお世辞にも言えないが、心のベストテンに堂々ランクイン!韓国のアイドル歌手、Rainことピが主演している。R-18を勝ち取ったほどの強烈なバイオレンス描写だけが頭からしっぽまでギッシリ。それだけじゃなく古今東西ありとあらゆるスタントアクションをふんだんに取り入れており、自ら演じるピも身体を極限まで鍛え上げ、魅せる!魅せる!親殺しや死の淵に立たされて蘇るなど、神話的要素も取り入れた極上の娯楽作だ。

ハングオーバー/二日酔いで記憶がないという誰にでもあてはまることをネタにしているが、これは正統な記憶喪失ものであって、観客巻き込み型の映画のひな形だ。その点において『ハングオーバー』は『北北西に進路を取れ』に負けずとも劣らない傑作であると言える。必見。

ファンボーイズ/行き過ぎたファンの暴走が奇跡を起こすという、ゼメキスの『抱きしめたい』を彷彿とさせる作品だが、なんとこれはその設定通り日本で腐るほど公開されている難病モノである。なのにもかかわらず、その難病モノに中指オッ立ててるあたりがアメリカ映画と言えよう。日本では絶対にこういう風にはならない。絶対!絶対にだ!スターウォーズの小ネタも決まりに決まっている。必見。

パラノーマル・アクティビティ/失敗作。主観視点を第三者が観るから怖いのに、第三者の視点を第三者が観たところで、目撃証言を聞いてるみたいな感じになってしまうのだ。コンビニ強盗を捉えた防犯カメラの映像は怖くないけど、コンビニ強盗に居合わせたら怖いっしょ?そういう感じ。

マイレージ、マイライフ/解雇通告人が解雇されたことで、そこから自分のしたことは正しかったのか?と思い悩むみたいな映画だと思って観ていたのだが、これがあれよあれよという間にルーキーとベテランのバディものへと変貌しておもしろかった。最近こういう物語の定石をあえて外すみたいな映画が流行っているのだろうか。原題は「上空で」や「有頂天になる」とかいう意味なのだが、同時に「宙ぶらりん」という意味もあるため、ホントに映画は宙ぶらりんで終わる。そのヘンのビターさも含めて大人の映画。良作。

ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う/説明的なセリフをオーバーアクトで喋らせたり、村木のキャラクターが妙になよなよして別人になってりと、ちょっと腑に落ちない点もあったが、石井隆の映画が大スクリーンで見れるんだからそんなんどうでもいいよ!あと会長最高ー!

ミックマック/傑作。『アメリ』の映像表現を使いながら、ケイパーもので『用心棒』と『椿三十朗』でベッソンの『サブウェイ』で『底抜けてんやわんや』で『未来世紀ブラジル』でもあるという映画ファンにとってのビックマックみたいな映画。『アメリ』ダメだった人もそうでなかった人も絶対必見。

キラー・インサイド・ミー/英国風あっさりテキサスムービー。嫌いな人は嫌いだろうし、ドヤ顔を感じなくもないが、かなり好きな映画。来年の公開が待ち遠しい。

プリンセスと魔法のキス/傑作。元々ディズニーパロディだった『シュレック』に対する王道ディズニーからの返答みたいな映画で、いつか白馬に乗ったイケメンの王子様がやってくるとか思ってる女の人必見。ニューオーリンズを舞台にしてるので音楽が全部マーチングスタイルのジャズという凝りよう。色彩や画面構築もあえて絵が動いていることを重視した感じでジャズ版の『ファンタジア』と言ってもいい。カエルにキスすると王子様に戻るという例の話を三回転半くらい捻った脚本もいい。

ザ・ロード/衰弱し切ってる親子のはずなのに妙に元気がいいところが気になる。絶望が足りない。

パリより愛をこめて/おもしろい!すごく満足した!始まってからノンストップの展開につじつまが合ってない所もあるけど、そんなの気にするなとばかりに見せ場が散りばめられてて、90分すごく楽しかった。最初にすげぇスタイルのイイ女と付き合ってるっていう設定でリア充め!とイラッときたけど、それも最終的に伏線になってたのがよかった。トラボルタの暴走っぷりが最高で、セリフも任務とは関係ない話をベラベラ喋っててそこが好き。「ショウ・ブラザーズみたいなマザファカな動きを観ただろ!」とかすげぇ好き。

12月
フローズン/スキーに行って最後の一滑りをしようとリフトに乗ったら、係員の手違いで高さ15メートルの所で宙ぶらりんになってしまって、さぁどうしようという作品。着眼点とリアルな会話はよかったんだけど、残念ながら、リフトで宙ぶらりんのため、他にやることがなく、若干全体的に間延びしてるように感じた。これこそ『パラノーマル』っぽくやった方がよかったのでは。

さんかく/倦怠期のカップルに訪れる危機と言えば小津や成瀬も撮ってる古典的な物語だが、そこからいくと『avec mon mari』以来11年ぶりの傑作ということになるかもしれない。倦怠期のカップルの元に彼女の妹が転がり込んできて三角関係になるという映画だけど、絶対に予測不可能な展開になっていくので食わず嫌いは禁物。元ヤンキーのDQN男で浮気してしまうというシャレにならない役どころの高岡蒼甫、そんな彼に依存し狂って行く田畑智子、その妹で天然小悪魔ちゃんの元・AKB48メンバー、えれぴょんの三人がホントにホントに素晴らしい。今年絶対必見の一本。

making of LOVE/モキュメンタリーながら劇映画のおもしろさが細部にまでギッチリつまっていて、正直、最初観ていて、ん?と思うところもあったのだが、それがぜーんぶ伏線になってるところは小気味良い。『さんかく』が新世代の小津映画だとすれば、こちらは新世代のゴダールといった具合。しかも記憶を巡る話でもあるので、『ラ・ジュテ』や『鏡』などの作品にも通ずるものあり。映画を作る過程がそのまま愛を作る過程になってるというところも見逃せない。女優がめちゃかわいい。

武士の家計簿/一列に並んでごはんを食べるというビジュアルから『家族ゲーム』ふたたびか!?と思ったが、至って普通の時代劇。下級武士の家計簿が見つかった!というノンフィクションの映画化のわりに、その企画を映画がまったく上回ってくれない。オレが見たいのは文字通り“武士の家計簿”であって、それ以外はどうでもいいのだ。武士がどうやって生活のやりくりしていたのかとか興味あるじゃんかよー。そのキモに差し掛かるまで一時間あって、さらに節約の部分は全然映らない。今の先行きが見えない時代にどうやって生きていけばいいんだーみたいのがテーマだと思うのだが、そのテーマにも着地しておらず、かなり宙ぶらりんな映画だった。

ノルウェイの森/出来は良くないけど好きな映画。音楽が『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』なので各シーンで妙に怖くなる。

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を/意外とみんなの熱量が少ない感じがするが、オレ的には最高傑作と名高い『エグザイル/絆』や『ザ・ミッション/非情の掟』と双璧。フランスと香港の役者による英語でのやりとりということで、セリフは極端に削られ、ボディアクションもそこまで多いわけではないのにドラマ性はかなり豊か。復讐映画という古今東西語り継がれてきたフォーマットに落しこむ様式美が極限まで純化されていて強烈。でも物語の枠組みはカチッとしていて、カルトの枠に納まらない大衆性もある完璧な映画。ちょーミラクル大傑作。

ヒーローショー/前半だけなら今年ベストワン級。ただし、なぜ浮気がばれたとか、なぜ弟は勝浦までついてこないとか、なぜバイト先は3人のことを心配してないとか、なぜ勇気は最後やられたとか、腑に落ちない点がすごくすごくすごく引っかかる。最小限の情報の提示のしかたを前半でしてるだけに、後半の説明過多も惜しい。でも物語の枠組みを取っ払った後半のダラダラ感は評価したいところ。

あと昨日『インセプション』のブルーレイが届いたからそれを年の瀬に観ようかなと思っております。いえい。