七つの大罪という芸術『セブン』

年末にいろいろ買ったのだが、その中でもっとも感慨深かったのが『セブン』のブルーレイだった。

セブン [Blu-ray]

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最初に観たのが、中学生くらいのときだったと思う。WOWOWで鑑賞し、それを3倍録画していたものだけ持っていて、その後に出たDVDがべらぼーに高かったのでスルーしていて、なんと10年以上はまともに観ていなかった。映像は基本的に暗く、ビデオで観ると黒くつぶれて何が行われてるのかさっぱり分からないところもあったので是が非でも高画質で観たかったが、今回BDが発売されるにあたり値段も1500円という信じられない金額だったので、速攻で1-Click購入し、即座に観たのであった。

あらすじを書くと、退職一週間前のベテラン刑事と血気盛んな新人刑事がコンビを組んで猟奇的な殺人事件に挑むというもの。

改めて今観ると、ホントに背筋が凍るような恐怖を覚えた。正直キャスト、脚本、映像、音楽すべてが完璧に機能している希有な作品のひとつだろう。美しくも恐ろしいタイトルバックや、この作品以降流行ったアンチハリウッドエンディングなど、この低予算な映画がシーンに与えた衝撃は計り知れない。

全編雨が降り注ぎ、室内は電気が消えており、懐中電灯のライトが重要となる暗すぎる映像を基調に、カメラは地を這うような動きで緩やかに流れていく。細かい伏線を伏線と分からせないように張っていく脚本もいいし、必ず観客がこういう風になってほしいという展開にちっともならないのも魅力的だ。ブラッド・ピットモーガン・フリーマンのコンビも決まりすぎるぐらい決まっていて、犯人役の「あの人」もほんとに頭のおかしい人にしか見えない。フィンチャーと言えばCGを使ってカメラがあり得ない動きをするというイメージがあったのだが、『セブン』では低予算だったということもあり、そういう気の衒い方は一切しておらず、一枚の絵をドーンとじっくり見せるようなリズムで撮っている。故に作品のトーンが重厚でありながらもスタイリッシュで、他のどの映画にも似ていないフィンチャーならではの作品になったのだ。

特に今回久しぶりに観て思ったのが、この作品は『タクシードライバー』だったんだなということ。

犯人のジョン・ドゥが刑事二人に対して、この世の中がいかに腐っているかというのを延々と説くシーンがあるが、これは『タクシードライバー』でトラヴィスが知事候補に「街中に溢れてるゴミを水洗トイレのように流してほしい」と懇願するシーンにも似ている。殺人の動機が世の中に生きてる全員が腐ったクズどもだから死んで当然というのもかなり近いものがある。日記をちまちま書いてるのもそうだし、女の影が見えないどころか、女に対しての憎しみが異常に強いというのもそうだ。

言ってみればこの『セブン』という映画は刑事側から見た『タクシードライバー』であり、そんな鬱屈した怒りを溜め込んだ『羊たちの沈黙』でもあるわけだ。特にサマセットが知的で博学でありながらもジョン・ドゥの魂の叫びに対して反論出来ない(同じような考え方を持っている)というのは、知的で警察に協力しながらも残忍な殺人者であるハンニバル・レクターのようでもある。

そして、鬱屈し肥大した怒りが得体の知れないものとなって世間に襲って来るという映画をその後フィンチャーは『ファイト・クラブ』と『ゾディアック』でさらに爆発させることになるのだが、それはまた別の話。

というわけで『ソーシャル・ネットワーク』の予習として『セブン』を改めて観るのはオススメ。特にBDはホントに高画質高音質で、この作品は音響効果がいかにすごかったかも分かった。Amazonなら1500円!もらったお年玉を全部使ってPS3と一緒に買ってしまおう!あういぇ。

セブン ブルーレイ コレクターズ・ボックス(初回数量限定生産) [Blu-ray]

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ゾディアック ディレクターズカット [Blu-ray]

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