娘に手を出したら37564!!『96時間』

『96時間』をBDで鑑賞。かなり話題になったが観ていなかった。

ストーリーはシンプル。旅行中の娘を人身売買組織に誘拐された元CIAの秘密工作員が、娘を取り返すため一人パリに乗り込んで大暴れするというお話。

誘拐されてからタイムリミットが発生するという設定も含め、元プロフェッショナルがわずかなヒントを頼りに猪突猛進というのはシュワルツェネッガー主演の『コマンドー』のプロットとまったく同じなのだが、今回はそれを見事に換骨奪胎し、極上のエンターテインメントに仕上げた。今まではカンフーアクションやパルクールなどを使い、ハリウッドとはひと味違う娯楽作を提供して来たベッソンだったが、ピエール・モレルという才能に出会ったことで、ついにハリウッドの土壌で真っ正面から勝負出来るような作品になったと言っていいだろう。しかもそれがアメリカでスマッシュヒットになり、続編の製作も決定したというのは大成功なんじゃないだろうか。

ストーリーはシンプルと書いたが、脚本は非常に良く出来ているし、演出も的確だ。説明過多になりすぎないように最小限の情報を提示して主人公の親子関係を分からせるところもいいし、不必要な情報としてそのすべてを明らかにしないところも近年の映画にしては珍しい。冒頭、有名スターの警護を任されるシーンも見せ場と伏線が一緒になっていて気がきいているし、娘が誘拐されるところは大きな仕掛けもないのに電話ひとつでサスペンスフルに盛り上げる。わずかな情報をひとつひとつ消化して次のプロセスに進むという定石も非常にミニマムでテンポが良く飽きさせないし、なによりもパリに乗り込んでからはカットバックがなく、娘視点が一切出て来ないため、細かい情報を集めて組織には近づいているけど果たして娘は無事なのか?というプロット上の一番大きなサスペンスが最後まで持続するあたりも見事だ。

映像でいえば、パリを舞台にしながらも、これぞパリ!という風景は一切封印し『タクシードライバー』に出て来るようなはきだめばかり映るところもおもしろかったし、アクションで無駄にスローになったり、手持ちでブレさせたりせず、人が死んでいくさまを淡々と無骨に撮ってくあたりもフランケンハイマーのそれのようでよかった。

さらに娘を溺愛するあまり、政府の仕事までやめてしまった主人公という設定がいい。とにかく主人公が娘いのち!娘に愛されるためならなんだってする!娘に手を出すヤツは政府の要人だろうが、組織のトップだろうが、絶対に許さない!むしろそれにかかわってる奴らは全員死ね!というのが徹底されていて小気味良い。しかも殺し方も容赦なく、「時間がないんだ」と無表情で拷問にかけるあたりは、痛快さを通り越して薄気味悪さすら感じた。

無償の愛という言葉があるが、まさに『96時間』は父親が我が娘のために無償の愛を捧げまくるのだ。これを見事に体現したのがリーアム・ニーソン。彼でなければここまでの映画になってなかったのではないかというくらいのはまり役。手数の多いアクションも見事にこなしていたし、クライマックスのプロ対プロの戦いは、彼が演じてるからこそ手に汗握ったといっても過言ではない。

というわけで、シュワルツェネッガーの『コマンドー』が好きな方には絶対におすすめしたい必見の痛快作。ちなみにBDだと主人公がどのくらいの距離を移動し、どのくらい人を殺したかというのが特典で分かるようになっている。こういうマニア以外誰も喜ばないような特典が付いてるのも魅力的ですな。あういぇ。