なぜ『ソーシャル・ネットワーク』は21世紀の『市民ケーン』と評されたのか?

これは21世紀の『市民ケーン』だ。フィンチャーにとっては『セブン』以来の傑作!!
――――スコット・マンツ/アクセス・ハリウッド
http://twitter.com/jpSocialNetwork/status/12128678922166272

巷で大絶賛されまくり、さらにはゴールデン・グローブ賞まで獲得した『ソーシャル・ネットワーク』だが、確かにそれも頷けるくらいのパワフルな作品であった。詳しい感想はこちら。

これ!という元ネタが見当たらない『ソーシャル・ネットワーク』 - くりごはんが嫌い

さて、ぼく自身もエントリの中で軽く言及したのだが、どうにもこうにも細部を良く覚えていなかったこともあって、『市民ケーン』をDVDで見返した。そして驚いた。確かに21世紀の『市民ケーン』とは言い得て妙で、『ソーシャル・ネットワーク』はかなり『市民ケーン』に似ていることが判明したのだった。

市民ケーン』はオーソン・ウェルズの初監督作品。若干25歳にして作り上げた驚異の映像遊園地は公開から70年経った今でも色あせておらず、未だに映画史上の金字塔と言われることが多い。フェイクドキュメンタリー形式の出だし、時間軸をずらしたパズルのような脚本、特にワイプ、超クローズアップ、オーバーラップ、パンフォーカス、クレーンショット、トラックアップ、アイリスアウトで見せる新聞記事、フリーズフレーム、アニメーションなど当時考えられる限りの技術を惜しげもなく投入した映像はスタンリー・キューブリックブライアン・デ・パルマに決定的な影響を与えた。

絶頂期のケーンさん。ノリノリ。

さて、この『市民ケーン』という映画は新聞王ケーンが死ぬ間際に残した謎の言葉「バラのつぼみ」を巡って新聞記者たちが関係者に証言をとるという構成になっているが、この関係者の証言から過去に飛び、その当時の出来事のシーンになるという構成がまず似ている。『ソーシャル・ネットワーク』ではメディエーション*1のシーンから過去に飛ぶのだが、「こういう噂があるんだけど、本当はそこで一体何があったのか?」を明らかにするという意味でもこの二作はリンクする。新聞の発行する地域がどんどん増えていって、その度に発行部数が伸びていくのも、フェイスブックの登録者数が増えていくシーンにとても似ているし、天文学的な数値に達成した時にパーティーが開かれるというのも一緒だ。

さらに主人公の動機が金じゃないというあたりも同じである。マーク・ザッカーバーグフェイスブックを拡大しようとするのは、元カノがフェイスブックの存在を知らなかったからで、彼女に知られるようになるくらい有名になってやる!というのが動機で決して金のために手を広げたのではない。ケーンはフラれた相手を振り向かせたいわけではないが、有名になって世の中の人々をたくさん雇いたいという動機があり、「決して彼は金のためにやってなかった」と証言までされている。新聞に嘘ばかりツラツラ書くので、経営をもっとしっかりとした方がいいとスポンサーに苦言を呈されるのだが、そのキャラクターがマーク・ザッカーバーグの親友であるエドゥアルド・サベリンにこれまた似ている。

そもそも人と繋がるためにフェイスブックや新聞会社を作ったのに、そのせいで他者との決定的な断絶が出来てしまい、さらに親友と絶縁してしまうという展開はほぼ一緒だ。どんなに成功しても孤独で、過去の一番楽しかった思い出にしがみついてるなんてあたりも一緒で、それが円環構造になっていて、ラストに行きつくのも一緒だったりして、実はかなり『市民ケーン』と『ソーシャル・ネットワーク』は共通点が多いのであった。

フィンチャーと言えば、カギ穴の中にカメラが入って、そのまま階の上までカメラが上がっていったり、上空から走ってる車にフォーカスを当てるなど特異なカメラワークで有名だが、実は『市民ケーン』にも雷雨の中カメラがネオンをすり抜け、天窓に近づき、雷が鳴った瞬間にカメラが天窓をすり抜けて、そのまま家の中を映すという特殊なカメラワークのシーンがある。この今までの映画にあり得ないカメラワークは後にデ・パルマが『虚栄のかがり火』で引用したが、フィンチャーもしっかりとこの影響下にいるわけだ。

もしかして『ソーシャル・ネットワーク』でそれまでの特異なカメラワークを封印したのは、そこもガンガンやってしまうと、本当に『市民ケーン』と比較されてしまうからではないだろうか――――ってのは深読みしすぎかな??

先日に引き続き関連エントリ
http://d1953coldsummer.blog64.fc2.com/blog-entry-589.html
無垢の罪と罰 ソーシャル・ネットワーク - The Spirit in the Bottle
『ソーシャルネットワーク』を見たよ - リンゴ爆弾でさようなら

*1:裁判前の調停。Twitterでアレ何?と書いたら親切に教えていただきました。http://twitter.com/golgo782/status/27280497906290688