願い事をしようぜ 君が無事でいて そばで誰かが抱き締めてくれるように
これから出勤しようかなという時だった。いつものようにパソコンを開いて音楽を聴き、テレビを付けてHDDを起動し番組を録画した。3月だというのに骨まで冷えるんじゃないかと思うくらい寒い。エアコンは温かい風を送り続けてる。
部屋がきしむ音が聞こえた。ゆっくりと横に揺れ出した。振り返ると部屋の本棚が激しく揺れていた。危険を感じた。すぐに全ての電源を切って、リビングに駆け出した。
リビングでは妹が毛布を被って横になっていた。Twitterを開く。「地震だ!」というツイートで埋まるタイムライン。すぐにテレビを付ける。とてつもない地震が日本列島を襲った。だが、この時はこれからバイトだなぁ。きっと、営業停止になってお客がごった返してるんだろうなぁくらいにしか考えてなかった。
車でバイト先に向かう。信号待ちをするたびに車が揺れた。駐車場で知り合いにたまたま会った。地震の時どうだったか訪ねると、かなりパニックだったとのこと。談話も早々に急いで私服のままフロアに向かう。とてつもないお客さんの量でごった返していた。オロオロするマネージャーたち。なんの指示もなく立ちすくむスタッフ。頻繁に行っている防災訓練がいかに無意味なものか思い知らされた。
休憩室に向かいテレビを付ける。各局が地震を伝える特番に切り替わっていた。お台場。フジテレビの横から黒煙が上がる。東京がパニックになる映像が映し出された。携帯からTwitterを開く。いつもTwitterでつぶやいている仙台に住む友人が一切つぶやかなくなっていた。
16時過ぎ、営業を休止するも、17時45分には再開するという指示。ひたすら職場にて待つ。
17時43分。再開寸前に営業を停止するという本社の指示がようやく来た。当然だろう。急いで片付けを開始。「せっかく早く帰れるんだからカラオケでもいこーぜー」なんて軽口でケラケラ笑いながらモップがけをする同僚。まさか壊滅的なダメージを受けてるとはこの時は知る由もなかった。
19時になり、一足お先にあがった。休憩室でテレビを付ける。想像を越えた映像が次々に飛び込んでくる。中越地震以上のことが起こってるようだ。同僚の携帯からけたたましいサイレンが鳴る。テレビには地震警報の文字が映し出される。
さすがに帰ることにした。リビングでは家族が食い入るようにテレビを見ている。津波が町を襲い、壊滅しているという報道が流れる。大規模な火災も起こっている。
ワインを一本空けた。ちっとも酔わなかった。テレビの前から離れられなかった。2時過ぎに寝た。
4時頃、強烈な揺れで目覚めた。深酒して3時間くらいしか寝てないのに、10時間以上寝たような目覚め。脳から様々な物質が分泌されているのが明らかに分かるくらい覚醒していた。
テレビをつけた。中越を震源地とした地震が起きたようだ。そして昨日の夕方には届かなかった情報が次々とテレビ画面に流れてくる。
信じられない。想像を絶する光景がそこに映し出されていた。
地震、津波、火事、爆破、放射能漏れ――――まるで怪獣映画――――いや、それ以上だ。
昼にバイトに向かう。通常とは違う形で営業するも、異常とも言える量の客がやってくる。「まだ予断を許さない状況なのに」と、なんとも言えない気分になる。
総理大臣が国民に助けを呼びかける。強制的に停電させるという報道。本当にこれが現実なのだろうか………
こんなことが起きているにも関わらず、何もすることが出来ない自分に腹が立ち、そんな中職場の後輩が上司にパワハラを受けた。たまたま現場を目撃したので、それをハラスメント対応の部署に報告すると決意し、告発文を作成していたら、また余震が……なんなんだよ、こんちくしょう。これ以上揺らすな。揺らしたらぶっ殺すぞ。
――――テレビが特番ではなくなった。みのもんたが涙を浮かべながら演説をしている。間もなくいつもと変わらない日常がやってくる。
とりあえずぼくらに出来ることは何でもやってやろう。些細なことでもなんでも構わない。日本がひとつになるのは今だ。
休日が終わり
僕らはみんな家に帰る
ここに残る理由もないのに
誰も動こうとはしない
僕らが当たり前に知っていること
いつまでも続くものなんてない
だけどあまりにも多くのものが
早すぎる終わりを迎える
願い事をしようぜ
簡単なやつを
君が一人きりじゃなくて
そばに誰かがいて手を握ってくれるように
願い事をしようぜ
君が無事でいて
悲しませるものもなくて
そばに誰かがいて抱き締めてくれるように
君が歩く道すがら
そばに誰かがいて抱き締めてくれるように
一日も早い復興を願って。あういぇ。