イントロから名曲の予感『フローズン・リバー』

フローズン・リバー』をDVDで鑑賞。

ギャンブル中毒の夫に新居の購入費用を持ち逃げされてしまったレイは二人の子供を育てることもままならず、日々の生活も失う寸前だった。パート生活に追われ夫を捜す時間もなく、途方に暮れているとビンゴ会場で夫の車を発見する。これでお金を取り戻せると思い会場に乗り込むも、入場料がないと会場には入れない。入り口でもたもたしていると、その夫の車が動き出してしまう。急いでその車を追ったが、なんと車から出て来たのは地元のモホーク族の女性だった。ライラと名乗るその女性に銃を突きつけ夫の場所を問いつめるも、彼女が見つけたのは車だけで運良くキーが刺さっていたから盗んだんだと主張。たまたまライラがその車を高値で売ろうとしていたということを聞いたレイは一緒にその場所まで出向くが、なんとそれは不法移民の密入国を仕切っている男のアジトだった………というのが主なあらすじ。

雪深いカナダの国境に流れる「フローズン・リバー(車でも渡れるほど凍った川)」を舞台に白人とモホーク族の間で起こる密入国に手を染める主婦の犯罪劇。言葉少ない淡々としたやりとりにサスペンスを盛り込み、ダルデンヌ兄弟を彷彿とさせる映像と役者の圧倒的な演技で観る者を最後まで飽きさせない傑作。

ドキュメンタリータッチの映像の中に膨大な情報量が詰まっており、その映像の向こう側にあるものまでこちらが読み取らなければならないという難しさがあるが、「人種も年齢も異なる二人がひとつの目的に向かって突き進み友情とも家族とも違う絆を結んでいく」というパターンと「素人が犯罪に手を染め、それが徐々に破綻に向っていく」というパターンを組み合わせた物語の構造は古典的であり、それをホワイトトラッシュと人種問題で味付けして、新しい映画として昇華した監督の手腕はお見事。

ハードな手触りながら基本的には優しさに満ちあふれており、その辺の柔らかさや非情になれない物語の進め方も良い意味で女性監督ならではと言ったところ。些細な行動が主人公の性格や心情を表すなど同時期に公開された『ハート・ロッカー』と似たような演出も見られるが、同じ女性監督としてここまで作風が違うものになるというのもおもしろい。特に今作は初監督作というから驚きである。

特にこの手のストーリーを考える場合、物語の発端となる出来事に嘘くささがあると途端に引き込まれなくなるが、今作では開始早々に「あ、この映画はホントに良く出来ている」と確信し、そこからあれよあれよと物語の中核に猛スピードで進んで行ったので安心した。音楽で言えばイントロからすでに名曲の予感といったところだろうか。

主人公を演じたメリッサ・レオがとにかく素晴らしく、彼女の表情のひとつひとつがすべてを物語ってる。下着姿を惜しげもなく披露することで、主人公がどういう人となりなのか分かるようになっているあたりもうまい。

見よ!この疲れ切った表情を!

一件小難しい映画に感じるかもしれないが、97分という上映時間を圧倒的なリアリティとサスペンスで突っ走って行くのでおすすめ。監督の二作目も楽しみである、あういぇ。

フローズン・リバー [DVD]

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