満腹通り越してもういらない…『エンター・ザ・ボイド』

エンター・ザ・ボイド』をDVDで鑑賞。

基本的にストーリーはなく、TOKYOでドラッグディーラーをしていた主人公がいきなり警官に射殺されるところから始まる。彼には妹がいて、妹のそばにいると誓っていたために、その魂が現世に留まり続け、ぐるぐると回り続けるというのがあらすじのようなものである。監督は脳みそが出るところや馬を解体するところを見せたり、9分間レイプシーンを映したりするなど、観客の神経を逆撫でし続ける鬼才ギャスパー・ノエ

前作『アレックス』の冒頭*1のような「映画史上最もスリリングなカメラワーク」で見せる「神の視点*2」がとにかくすさまじく、サイバーパンクをそのまま視覚化したような色使いも相まって、今までのどの映画にも似ていないのはさすがギャスパー・ノエ。東京というまったく画にならないダサい街並を「TOKYO」としてこれ以上ないくらいかっこよく映していたのには感動した。

スターゲートのシーンをそのまんま換骨奪胎してトリップシーンに使ったり、スターチャイルド的なラストにしてみたりして『2001年』をえげつない感じで再現しているものの、ノイジーな音楽が続いたり、麻薬を扱っていたりと、キューブリックというよりは塚本晋也ダーレン・アロノフスキーの作品を彷彿させるところが多々あり、基本的にそのスタイルに一貫性はない。最終的にどこを切ってもギャスパー・ノエにしか仕上がってないところはさすがである。そう言えばノエさんはこの二人と対談してるんだった。

その超絶的な映像にコラージュ感覚で差し込まれていく「輪廻」、それを象徴するかのようにセックスしまくる男女が後半延々映されていくなど、とにかく刺激的な映像がひたすら続いていく。ところがいかんせん映画自体がやたら長く、そのぐるんぐるんまわり続ける映像に後半はすっかり飽きていた。監督にしてみたら完璧な映画を撮ったぜ!という感じであろうが、サービスが過剰というか、コンプリートCDと銘打って10枚組でベスト盤が出るみたいな感じで、そんなにいらないわ!というか、空腹のときに二郎は最大のごちそうだが、あまりに盛られ過ぎてて、満腹を通り越して気持ち悪くなるというか――――だが、世の中にはその二郎を平らげるジロリアンなる者が存在するので、そういう好事家にとっては中毒性があり、カルト化も必至。

テーマ的には『アレックス』にも通じるところがあり、故にギャスパー・ノエの集大成といっても過言ではないのだが、さすがのギャスパー・ノエ好きにもおすすめしにくい作品。ちょっと観てみようかしらという風に借りるとやられまっせ。あういぇ。

エンター・ザ・ボイド ディレクターズカット完全版 [Blu-ray]

エンター・ザ・ボイド ディレクターズカット完全版 [Blu-ray]

*1:と言っても時間軸的には終わりになるのだが

*2:主人公の死んだ後の目線なのだが、ここでは便宜上そう呼ばせていただく