メイキング付きのかくし芸『英国王のスピーチ』

英国王のスピーチ』鑑賞。平日の朝一の回ながらサービスデーということも相まって、ご年配の方が多く鑑賞されていた。

ヨーク公アルバート王子の史実を元に、吃音症に悩む英国王が型破りな治療法で知られるオーストラリア人の言語聴覚士と共にその吃音症を乗り越えていくというお話。

一言でいえば“メイキング付きのかくし芸大会”――――リハーサルでは一発も成功しなかった演目に対し、生本番一発で成功させなければならない演者と先生の関係性を追い続けましたみたいな感じで、作品は一言で説明出来るくらい単純ないわゆる「よくある話」ではあるが、時にコミカルに、時にシリアスに、そして全体的にそつなくまとめあげてあり、構図の妙な歪さもあいまって、一見格調高そうなものを誰にでも見られるように作り上げてある。

ハッキリ言ってクライマックスまでさして盛り上がりはないが、これは良い意味で盛り上がりがないのであり、いわゆる映画的な拡張、仰々しさみたいなものはひとつもない。おいおい、そんなに説明不足でいいのか!?というくらい簡略化された演出でどんどん進んで行き、111分のランタイムをあまり感じさせずに映画は終わる。パキっとしたメロディがなく、Aメロがずっと続いていくのに、演奏がうまいために最後まで聴いてられる楽曲と言えばいいだろうか。んで、最後に大サビがあるみたいな。

カメラは基本的にしっかり据えており、よく映るのは役者の表情で、舞台でも出来そうなくらいセリフも多い。さしてクライマックスまで盛り上がりはないと書いたが、実質映画の軸となるのはコリン・ファースジェフリー・ラッシュの演技合戦であり、役どころも相まって、二人の演技がバチバチと火花を散らし合う。そこに箸休め的にヘレナ・ボナム=カーターの演技が華を添え、的確にシフトチェンジするのも見事。彼らは部屋の中/部屋の外をとにかく歩き回るが、その歩き回ったり、立ち回ったりする動作ひとつひとつに意味があり、それにキャラクターの心情や関係性を持たせたのもうまいとしか言いようがない。立たせる位置やカメラの切り替えるタイミングまでも絶妙で、地味に見えるストーリーに深みを持たせたのは、間違いなくこの構図の取り方だろう。

ただ、そつなく見事にまとめあげてるだけあって、これと言った突き抜け感がないのも事実で、正直こちらが求める以上のものはなかった。それが『マチェーテ』のようにぶっ飛ぶくらいの楽しい、好きなものだらけであれば別なのだが、これは「スピーチ出来なかった人が一世一代のスピーチに挑む話」であり、そこに自分の好きな要素はあまりなく、観終わった感想も「う、うん、おもしろかったよね……う、うん」と、主人公の喋りのようにどもってしまうのであった。『おくりびと』が過度に評価されたのと同じような印象を持ったのである。

というわけで、予告編を見て、こりゃおもしろそうだと思った方はスクリーンへ駆けつけることをおすすめ、とりあえず損はしません。あういぇ。

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"善良王"ジョージ6世の生涯〜映画『英国王のスピーチ』――――メモリの藻屑、記憶領域のゴミ
http://d.hatena.ne.jp/globalhead/20110311#p1

言ってしまえば予告編や宣伝で得られる情報から想像の付く物語以上のものは無いのではあるけれども、逆にそれが安心して観る事の出来る手堅さを生み、観るものの期待にきちんと応えられる王道的な人間ドラマとして完成しているのだ>ホントにその通りなんだよなぁ。