フェイクを越えたリアルドキュメンタリー『NOVEM ノヴェム』

『NOVEM(ノヴェム)』をDVDにて鑑賞。

2004年、ハリソン州立大学に通う音楽好きの大学生ジョーダンは、何気なしにガレージセールにて10ドルで売られていた30年前のマスターテープとフィルムを手に入れる。テープには「NOVEM(ノヴェム)」と書かれており、無名のバンドのテープらしいのだが、聴いてみると、とても30年前の物とは思えないクオリティの楽曲が9曲入っていた。一体NOVEMとは何者なのか気になったジョーダンはフィルムに映っていた録音風景から数少ないヒントを得て、彼らが同じ大学に通っていたことを突き止める。ところが、彼らの楽曲が世に出なかったのには訳があった……というのがあらすじ。

6日間しか活動しなかった無名のバンドNOVEMを追ったフェイクドキュメンタリーながらかなり良く出来ている。73年の録音風景と2004年の学生たちの映像を交互に映し出す構成は緩急織り交ぜた見事なものだし、何よりも映画のキモである無名のバンドNOVEMの楽曲を本当に出てる人たちに作らせたというところに感銘を受けた。

映画では6日間のキャンプにて、9人の若者がセッションしながら楽曲を作り上げるという設定になっているが、実際に監督はこれと同じことをオーディションで選んだミュージシャンたちにさせた。映画でNOVEMの役を演じてる人たちが本当にNOVEMとして合宿をし、楽曲を作り上げたのである。大概この手の映画となると、楽曲は外部に発注させ、それを役者が当て振りで演じるが、フェイクドキュメンタリーを越えたリアルドキュメンタリーが映画の内容とシンクロすることで、他の音楽映画とは違う感動を呼ぶのである。

音楽だけじゃなく、物語の運び方も見事であった。フェイクドキュメンタリーという奇を衒った形式を選ぶと、その形式に甘え、物語が散漫になりがちだが、誰が作曲したかすら分からない謎だらけのバンドNOVEMを細かく追って行く過程や、その音楽がどのように広まっていくのかというのもしっかり描いており、さらにはプロジェクトが大きくなればなるほど、絡んでくる権利の問題やそれを利用する家族など、きちんと物語の障害になる部分も盛り込んでいて、劇映画としてのおもしろさも抜群だ。

細かい部分で言えば、なんで30年前のテープなのにノイズが入ってないのか?とか、そもそもあの録音に立ち会った人はなんでそのままそのバンドのことを気にかけなかったのか?とかいろいろ気にかかる部分はあるものの、それを吹き飛ばすパワーと作り手の本気さを感じた。

というわけで、何気なしにレンタルしたらこれが大当たりだったのでおすすめ。『少年メリケンサック』や『BECK』よりも遥かにおもしろい。しかし、これ話題にならなかったのだろうか、あういぇ。

NOVEM ノヴェム [DVD]

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