バンドデシネで描かれた「映画」『ベルヴィル・ランデブー』

ベルヴィル・ランデブー』をDVDにて鑑賞。恥ずかしながら観ておらず、その存在も『イリュージョニスト』を観るまで知らなかったという体たらく。

戦後間もないフランス。内気な少年シャンピオンくんは、おばあちゃんが贈ってくれた三輪車に興味を持ち、そのまま自転車に乗るという喜びを知る――――時は流れ、自転車レースの選手となった彼は、世界最高峰の大会であるツール・ド・フランスに参加することに。当然ながら初挑戦でうまくいくはずもなく、シャンピオンくんはリタイア寸前。レースの途中で、救援車に乗り込むのだが、それは救援車を装った誘拐目的の怪しい車で、彼はそのまま謎の組織にさらわれてしまうのだった――――愛する孫を誘拐されたおばあちゃんは愛犬を連れて、シャンピオンくんがさらわれた足跡を追う――――というのが主なあらすじ。

いきなりカートゥーン調のキャラクターがディズニー的なドタバタをモノクロで繰り広げるので、それに面を喰らったのだが、その絵がぐーっと引いて、テレビの映像だったことが分かると、そこからは綿密に描き込まれた超絶的なバンドデシネ風味全開の一枚画が飛び出し、その時点で「これはアメリカのアニメとはまったく違うモノです」と所信表明をする。

一枚の絵でもってすべてを表すというのがバンドデシネの一般的なイメージだろうが、この『ベルヴィル・ランデブー』は、そのバンドデシネが持つイメージを存分に意識して「映画」を作ってやろうという試みに満ち溢れている。いわゆる「フランス産アニメ」という特異な性質が足かせにならないように、映画であるという刻印をあちらこちらに――――それも意識的に刻み込んでいる。

つまり『イリュージョニスト』が「動くバンドデシネ」を目指したものだとしたら、その文脈はまるで真逆であり、ひとことでいうなら『ベルヴィル・ランデブー』は「バンドデシネで描かれた映画」という感じだ。

綿密に描き込まれた画をじっくり見せるのではなく、ものすごいスピードでカットが変わっていき、そのスピードだけで息も付かせない。さらには360度パンやオーバーラップ、シャロウフォーカスにズーム、時間が歪むようなモーション感覚*1、クローズアップ、トラックバック、モーフィング、フェイドアウトエスタブリッシングショットと、80分の間に映画的な映像テクニックがてんこ盛り。

だからと言って映画はそれに溺れることなく、強烈な個性の画に負けない程度にスパイスを効かせているだけで、基本的に動く画を見せるというアニメーションの基本に忠実である。

ベルヴィル・ランデブー』を観てパッと思い浮かんだのが大友克洋が95年に製作したオムニバスアニメ『MEMORIES』の一編、『大砲の街』だ。

大砲の街 Cannon Fodder - くりごはんが嫌い

こちらのエントリにも書いたとおり、当時アニメにおける限界に挑んだこの短編は大変話題になったが、DVDの特典映像で監督が「日本のアニメには毎回驚かされる」と発言しているため、もしかしたら意識しているのかもしれない。現に、『大砲の街』に出てくる老人の描写と『ベルヴィル・ランデブー』に出てくる3人組のばーさんはよく似ている。

というわけで、『大砲の街』が好きだという人にはおもしろく見れるはずだし、普通に何の文脈も意識せずにアニメとしてもおすすめ。何よりも95年に大友克弘が追い求めた方法論をこういう形で完璧に無駄のない作品として完成させてきた監督の情熱に素直に賛辞を送りたい。熱狂的なファンが多いのも頷ける傑作だ。あういぇ。

ベルヴィル・ランデブー [DVD]

ベルヴィル・ランデブー [DVD]

*1:ザック・スナイダーとかガイ・リッチーがよくやる、通常スピードからグニャーンってスローになるあれ