(ケネス・ブラナーの)『マイティ・ソー』

マイティ・ソー』を3Dで鑑賞。それにしても画像検索をすると突飛なビジュアルが山ほど出て来ますな。

地球から遠く遠く離れた、惑星(?)アスガルド。王の座を狙わんとする弟の策略により次期王の候補であったソーが追放され、地球に落っこちて来た。そこで天体学者であるナタリー・ポートマンと出くわしたことにより、ソーは地球での生活を余儀なくされる。一方、弟は生まれ持った口のうまさで、王の座に付こうとするが、弟は弟で過酷な現実が待ち構えていた。全てを知ってしまった弟は父である王と兄:ソーの殺害を企てるのだが……というのが主なあらすじ。

あらすじをぼくなりに咀嚼して書いたが、観た人によって、そのあらすじは異なるだろう。それほどまでに2時間のランタイムの中に情報が多く詰め込まれているし、さらに地球での物語とアスガルドでの物語が同時に進行し、それぞれに絡み合っているという手の込みよう。ところが、それが柔らかく煮込まれているため非常に咀嚼しやすく、その情報量の多さが物語を推進する邪魔にはなっていない。

監督は「あの」ケネス・ブラナー*1。「あ、そうか、ついにケネス・ブラナーもこういう映画を撮るようになったか」と驚きを隠せなかったが、観たら分かる通り、この作品はケネス・ブラナーが撮る意味のある題材であり、彼が撮ることによって、ここまでの作品になったと言い切って良いくらいだった。

まず、突飛なビジュアルからは想像も出来ないくらい人間臭い物語を、そのまんま舞台寄りのオーバーアクトで味付けした。緩急付けない仰々しい「ダーッハッハッハ!」という演技が、まるでシェークスピアのそれのように映し出される。それを体現した役者陣は見事だが、あの名優アンソニー・ホプキンスがこの演出にどハマりしており、『タイタス』での怪演に負けず劣らずの存在感を見せた。アンソニー・ホプキンスだけでなく、他の役者も同じように機能しており、このことにより、多少浮世離れしたレトロフューチャーな世界観に負けない力強さを与えることに成功している。

逆に地球に生きる人々は、日常の地続きの演技でもってメリハリをつける。特にソーのキャラクターは地球にいるときとアスガルドにいるときではまるで猛々しさが違うため、地球にいるときはとてもチャーミングに見えるのも好感度が高い。

先ほども書いたように、世界観は荒唐無稽であるが、それをここまで格調高い映像に仕上げたのは見事と言う他ない。特にラスト近くの晩餐会のシーンを絵画のように切り取るなど、ケネス・ブラナーの手腕はすべてにおいて遺憾なく発揮される。

一枚絵にこだわりぬいたところはこだわりぬくが、惑星の裏側からグルっと一周して、逆さまになった海の底からカメラが飛び出して来るという驚異的なエスタブリッシングショットは『スーパーマリオギャラクシー』さながらで、今までの映画にはなかったポップでキッチュな映像表現を見せつける。アクションシーンでもケレン味とオーソドックスが合体したような演出を見せ、それが要所要所に出て来ることで、絵画的な絵作りとは対比させ、改めて観客に「やっぱりこれはアメコミヒーロー映画なんだ」ということを強く認識させてくれる。

個人的に好きな演出はボイラーメーカーのくだり。

ボイラーメーカーとはビールの中にウイスキーを入れるカクテルのことで、瞬時に酔うことが出来てしまう。あえて悪酔いさせようと、ソーのことをあまり良く思ってない男がしれーっと頼むのだが、ソーは人間に戻ってしまったとはいえ、元々アスガルドの屈強な戦士であるため、こんな酒では酔いもしない。これを使って、プロットはラブストーリーとしての機能を果たすのだが、この辺の「映像だけで分からせる演出/簡略化」が多々あったのもうまいと思った。

というわけで、アメコミヒーローものを観に行く!という気構えで行くならば丁度いい作品。異常なほど引っかかる部分も多いが、主人公のソーというキャラクターがすこぶる魅力的なので、それもあまり気にならない。個人的には2Dでレイトショーに気楽に観たい感じだ。戦士のような恰好をして、ハンマーを持ってるティーザーに対して「あいたたた…」と思ってる人にもおすすめできる。ただし、『スパイダーマン』や『ダークナイト』のような傑作を頭に描いていくと痛い目に遭うだろう。あういぇ。

関連エントリ。世界観の説明やキャラクターの詳細についてはこちらを参考にされたし。

蛮勇(バカ)が地球にやってきた! マイティ・ソー - The Spirit in the Bottle

エンドクレジットが始まっても席を立たないように、ちなみにエンドロールでかかるのはフー・ファイターズ!ノリノリ!!

*1:気になった方はググってくれ