これぞア↑コガレカーニバル『フリクリ』

フリクリ』のUS盤BDが届きました。

日本ではまず初回限定版として、箱入りのスケルトンパッケージでDVDが出たあとに、普通のケースで通常版として販売され、その後にDVD-BOXが出て、少し前にまんをじしてBlu-ray BOXが発売されたのですが、これが15750円と異常に高く、さらにパッケージがポッキーの箱みたいな仕様だったために非難囂々という有様でした。

FLCL Blu-ray Box 【期間限定版】

FLCL Blu-ray Box 【期間限定版】

日本のアニメのDVDやブルーレイは総じて高いですが、『フリクリ』はアメリカでもダントツの知名度を誇る作品なので、もう少し安く出してくれてもいいんじゃない?と思ってたわけですよ。しかも一話が20分なので、全六話観ても二時間で、ハッキリ言って映画一本分です。それでこの高さは――――ぼ、ぼったくりじゃないか!

ただ、ぼくはひらめいたわけです。逆にアメリカで知名度が高いのならば、US盤でBDが出てるんじゃないかと。

そしたら案の定発売されてました

日本盤は2枚組ですが、US盤は全話が一枚におさまっていて、さらに監督の音声解説付き。この監督の音声解説はUS盤しか収録されてませんので、ファンは是が非でもこちらをチェックされるといいと思います。

気になるお値段ですが、Amazon.comでは19ドル49セント、送料入れて、現在のレートに換算すると――――1871円!!これは安い!安過ぎる!

最大の欠点は注文してから届くまでに三週間くらいかかってしまうことですが、値段が値段なので、そこは目をつむりましょう。

日本盤と見比べてないので、比較は出来ませんが、DVDに比べ、音質はかなり向上していて、画質も素晴らしいです。惜しむらくは元々OVAなのか、画面のサイズが4:3のままなんですよ。つまりプラズマや液晶テレビで見ると、画面の端が切れてしまってて、これは16:9に直して欲しかったなぁというのがありました。日本盤ではこの辺解消されているのでしょうか?

んで、まぁ最後まで観たんですが、やはりおもしろい!もう10年以上前のアニメになってしまいましたが、その斬新な映像表現は今見てもまったく古びていません。

マトリックス』公開から一年で、すでにアレを超えるようなカメラワークを使っているし、何よりもマンガのコマをそのまんまワンカットで写して、一コマ一コマ追うように見せつつ、オノマトペや集中線が動くという手法はそのまんま『キック・アス』にマネされ、今年日本でも公開された『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』ではそれが突き詰めた形で登場します*1


これがその衝撃のマンガパート。『キック・アス』よりも10年早かった!

コミック的な表現で見せるカット割りとその早さ、さらにthe pillowsの楽曲がこれ以上ない形で映像を援護射撃し、双方に相乗効果をもたらすことに成功しています。このアニメのおかげでthe pillowsアメリカでの人気も高く、メンバーがツアーで訪れた際、街を歩いていたら、「もしかしてthe pillowsのメンバーですか?」と声をかけられるまでになったそうです。

ハッキリ言ってストーリーはほぼないんですよ。基本的にはエヴァでいうところの使徒が現れて、それをやっつけるというのが基本ですが、それ以外はなんの話もありません。故に脚本がしっかりしてないとダメだという人にとっては拒絶反応を起こしてしまうでしょう。実際、当時ぼくの周りにいたアニメファンの間ではこれでもかと賛否が分かれてました。どっちかというと否の方が多かったように思います。

ガイナックスでは『エヴァンゲリオン』の後に製作されたオリジナル作品*2だったし、それに対する期待があったのかもしれません。今でこそ、表立って大好きだ!というファンが現れましたが、それもアメリカでの評価が逆輸入した形になったんじゃないかなぁとぼくはにらんでいます。

確かにストーリーはなく、数々の伏線もこれみよがしに出るだけで回収されず、ハッキリ言って実験的で斬新な映像表現だけにフォーカスをあてた作品だということは否定しません。なので、そこを批判する人の気持ちも良く分かります。

ただ、この作品。ストーリーこそないですが、説明不能妙なシチュエーションが至るところに出て来るんですね。かるーく羅列するとこんな感じ。


・年上の女の子に敬語を使われる
・嫌いな飲み物の飲みかけを女の子から「半分余ってるから」と渡される
・お父さんのお手伝いさんとして家に来た女の子が実は自分目当てで、それを照れながら告白される
・文化祭でネコ役というわけわからない役を押し付けられ、やる気がない中、「帰ってほしくない」と引き止められる
・みんなが辛い辛いと絶叫してる中、ひとりだけすました顔で激辛カレーを食べる
・野球でまったく打てなかった主人公が、その一振りで地球を救う
・自分のことを好きだと思っていた女の子にチウしようとすると拒否される
・左利きの女の子が出て来る



これ、改めて観て思ったんですが、この感じ、どっかで聞いたことありませんか?これだけでお気づきの方もいるかもしれませんが――――そう、これ「ア↑コガレ」なんですよ!!

ア↑コガレと言われても、なんのこっちゃ分からない人もいるかもしれませんが、ア↑コガレというのは音楽ライターの高橋芳朗さんが発明した新概念で、「まだ名前のついてない感情やラベリングされてない心の動き」を落語のように一席、二席と発表する話芸のことです。TBSラジオの「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」にて発表されました。


これがそのア↑コガレというヤツ。リンクはタマフルポッドキャスト

http://podcast.tbsradio.jp/utamaru/files/20100731_satlab_1.mp3
http://podcast.tbsradio.jp/utamaru/files/20100731_satlab_2.mp3

「空中キャンプ」の伊藤聡さんが、同番組に出演した際、「ア↑コガレは文学であり、短編のフォーマットに向いている」とおっしゃってましたが、まさにこれがそのまんま『フリクリ』に当てはまります。『フリクリ』は一話20分という、いわゆる短編であり、そこにはア↑コガレがギッシリ詰まってるわけです。

そう!『フリクリ』は実は「ア↑コガレ」を実験的な映像表現とthe pillowsの楽曲で味付けしたアニメだったんですよ!

というわけで『フリクリ』はタマフルファンにもアニメファンにも、はたまた『キック・アス』や『スコピル』に燃えた者にもおすすめしたい作品。あんまし知名度ない気はしますが、レンタル屋さんに絶対に置いてあるので、一話だけでも借りて観れば、このニュアンスが伝わると思われます。ぼくは当時からすごく好きな作品で、エヴァンゲリオンの100倍くらい好きです。ただし、エヴァは4回くらい通して観て、さらに新劇場版は両方二度観に行ってる程度には好きですが、あういぇ。

関連エントリ
問題作?いや!断固支持!『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』 - くりごはんが嫌い

フリクリ DVD-BOX

フリクリ DVD-BOX

FLCL Original Sound Track No. 03

FLCL Original Sound Track No. 03

*1:実際、監督のエドガー・ライトは『スコット・ピルグリム』を作る際『フリクリ』を参考にしたと公言していた

*2:その前にカレカノがあるが、それは原作モノだった