「人生」ってヤツを感覚的になんとなーく伝える手段『リミッツ・オブ・コントロール』

『リミッツ・オブ・コントロール』をDVDにて鑑賞。ジャームッシュは胸を張って好きと言える監督のひとりだが、当然新潟では公開されず、さらには新作を作っていたというのも他の人のブログで知るというスペシャル体たらく。故にDVDがとっくにレンタルされているのであったが、いやぁ想像以上の代物で驚いた。衝撃的な実験作といってもいいだろう。

“自分こそ偉大だと思う男を墓場に送れ”という言葉のみ与えられた、殺し屋とおぼしき男が、コードネームを持つ仲間たちと会い任務を遂行するというのが主なあらすじ。

冒頭、《想像力を使え》《すべて主観的な物だ、好きに解釈しろ》《小細工するな》《人生には何の価値もない》という言葉をあるキャラクターに喋らせるのだが、この時点でいきなり映画の主題やテーマ的なものが明かされ、今までのジャームッシュ作品とはひと味違うよという所信表明をする。

ひとつのテーブルに座って主人公と話し、それがひとりひとり入れ替わっていき、映画の流れを作るというのはオムニバスの枠組みを取っ払っただけで、基本的には『ナイト・オン・ザ・プラネット』や『コーヒー&シガレッツ』と映画的な文法はそこまで変わっていない。「ひとつの目的に向かって歩き続ける」というシークエンスや「各キャラクターにへんちくりんなこだわりがある」「様々な人種の人が出会って、そして別れていく」など、ジャームッシュ登録商標がいたるところに散りばめられており、分解していくと、実のところあまりスタイルが変わってないことが伺える。

もっと言えばこの作品は、ジャームッシュが追い求めて来た「人々が出会って、そして別れる」という作家性をグッと煮詰めて純化させており、そこに『デッドマン』や『ゴースト・ドッグ』で見せた死生観をまぶした、いわば集大成的な作品でもあるということだ。出てる役者たちは言わずもがな。

では、集大成的な作品でありながらも、何がそこまで今までの彼の映画と違っていたのか?

まず、この作品にはストーリーというものが存在しない。一応プロットめいたものがあるにはあるのだが、極限まで観客に提示させないというスタイルをとっている。主人公が属してるかもしれない組織の説明がなければ、そもそも彼は何のために任務を遂行しているのかすら描かれない。とにかくありとあらゆることにたいしての「理由」がこれっぽっちも見当たらないのである。

そして長々と掛け合うような小粋な会話がいっさいない。今回映画の中に出てくるセリフは会話というよりも対話であり、哲学的な言葉を延々とぶつけ合うだけ。作品的には『女と男のいる舗道』でゴダールが見せた哲学者との対話にかなり近いものがある。

さらにジャームッシュがもっとも得意としてきたキャラクタースタディがいっさいない。「エスプレッソを2つ頼む」「携帯は使わない」「セックスはしない」という特異な設定が出てくるが、あくまで任務の一環であり、そのキャラクターの性格を形作ってるものではない。それは他のコードネームを持つ仲間も同様で、役者の「個」としての存在感こそあるものの、それ以外は人間というよりもコマとして映画にポンと配置されているだけである。「スペイン人」や「日本人」「黒人」と言った具合に。

確信犯的にすべてを隠しているのだろうが、それによって浮かび上がってくるのは、「人生とは何の価値もないつまらないもので、自分が見たもの体験したものは消えていき、さらに「人」と「人」が出会って、そして別れていくだけ」という作品の――――そしてジャームッシュが今までに追い求めたものである。

「人は何のために生きているのか?」というのは生きていくうえでの重要なテーマだが、冒頭で《人生には何の価値も無い》という言葉を言われた主人公はそれをそのまんま体現することになる。

所在無さげに街をひたすら歩き、任務のために女も抱かず、携帯も使わず、酒も飲まず、タバコも吸わず、人との接触は任務のときだけ、もっと言えば主人公が自分の意志で行動している――――とされてるシーンは絵を見に行って、そのイメージを部屋に持って変えるということであり、それ以外はすべて組織の支配下に置かれ、動いているのだ。

なんと女体の絵をひたすら眺めて帰ったら、ベッドの上に黒ブチのメガネをかけた女が横たわっている!!なんて素晴らしいシーンなのだろう!!黒ブチメガネと素っ裸の相性ったら!

――――つまり「人は何のために生きているのか?」という問いにたいして、ある種ジャームッシュが絶望視しながらも達観したような答えをこちらに提示している作品が『リミッツ・オブ・コントロール』なのである。

――――と言いながらも、これはあくまでぼくが勝手に解釈しているだけであって、冒頭にもあるように好きに解釈出来るように意識的に作られている。個人的な感想を言わせてもらえば、少し長いし、明らかにいらないシークエンスもたくさんあって、ハッキリ言えば退屈する個所もある。あくまでもジャームッシュファンだけにおすすめしたい作品だ。あういぇ。

しっかし、よくこんな儲からなそうな映画に金出したよなぁ。スポンサーは立派!まぁ、低予算なんだろうけど。

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リミッツ・オブ・コントロール スペシャル・エディション [DVD]

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