あの『インセプション』にも影響を与えた(と言われている)アニメ『パプリカ』

『パプリカ』をレンタルDVDで鑑賞。『インセプション』と設定が似ていると言われたりしていたのだが、観てなかった。ちなみにそれ以外の今敏監督作品は全部観てるのだが……

他人の夢を共有する装置が研究所から盗まれた。それと同時にその装置を発明した時田の相方である氷室が失踪し、世間では、その機械を使い、精神を崩壊させて自殺に追い込む事件が発生する。その事件を担当することになった刑事:粉川は友人でもある研究所の所長:島を訪ね、そこで出会った彼の助手である千葉敦子に心奪われる。実は粉川はトラウマを抱えており、事件以前に門外不出であったその装置を使ってサイコセラピストとして活躍する謎の女:パプリカと接触していた。千葉敦子にパプリカの面影を見た彼は、次第にその夢の世界の虜になっていく……というのがあらすじ。

「夢」を断片的なコラージュで紡ぎ、それを何度も反復させたり、行ったり来たりさせ、さらにワンシークエンスを円還構造的に扱うことで、同じ場面を繰り返し見ているのに、それが時にサスペンスになったり、時にラブストーリーになったり、時にミステリーになったりするというすさまじい構造を持った作品。さらに「これは映画である」というメタ視点を入れることで、「夢を見ている登場人物が見ているのは映画である」という部分が我々観客とシンクロするという手の込みよう。そんなすさまじい情報量を含みながら、映画はわずか90分。怒濤のスピードで駆け抜ける文字通り夢のような快作。

到底実写にすると陳腐になってしまうようなガジェット*1を山ほど使い、アニメにしか出来ないイマジネーションの洪水をきちんと映像にし、しっかりエンターテインメントに仕上げた今監督の手腕は見事という他ない。トラックアップが頻繁に登場するが、これは夢の中に入っていくという行為に対しての映像のメタファーであり、アニメにおいて、表現するのが難しい技術をわざわざ使うことに監督のこだわりを感じる。実際、アニメにおいて、アニメーターが手書きをしないリアルなトラックアップが使われた大友克洋の『MEMORIES』に今敏監督は関わっていることもあり、そこから考えると、この映像表現はとても感慨深いものがある。

それまで「実写でもよくね?」と言われて来た今監督だったが、その複雑な構成だけでなく、音楽もテクノミュージックで仰々しいモノを使用し、さらに俳優ではなく、これぞアニメの声優をキャスティングしたことから、再び「アニメとは何か?」を彼自身が問いただすような作品になったのではないだろうか。

それが証拠に、夢や妄想に潜り込むというのは脚本を手がけた『彼女の想いで』と一緒だし、コラージュ感覚で時代や舞台がカット毎にコロコロ変わるというのは『千年女優』を彷彿とさせ、現実なのか?妄想なのか?という部分でゆらぐというのは『パーフェクト・ブルー』であり、激しくキャラクターが壁をかけあがったり、空を飛んだりするアクションは『東京ゴッドファーザーズ』と酷似している。『パプリカ』は今までにない映画の文法を持ちつつ、今敏監督の集大成的な作品に仕上がっているのだ。

というわけで、順調にフィルモグラフィーを積み上げて来た今監督だったが、劇場用アニメとしてはこの作品が遺作となってしまった――――映画ファン/アニメファン以外知名度はあまりないかもしれないが、とにかく大変素晴らしい作品なので、是非多くの人に観ていただきたい。なんと、US盤BDは10ドルという破格の安さである!なんてこった!今すぐ1-Clickするしかないな!

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あ、そうそう、『インセプション』に似てると言われてるけど、そんなに似てなかった。確かに「夢を植え付ける」とか「覚醒させる」とか、明らかにパクってる部分は散見されたけど。あういぇ。

*1:おもちゃが歩くとか孫悟空になるとか