これを食べに来たみたいなところはある『導火線 FLASH POINT』

『導火線 FLASH POINT』をレンタルDVDで鑑賞。

返還直前の香港。毎度毎度犯人に重傷を負わせてしまうが、検挙率はトップのマー刑事が主人公。彼が追うのは、ベトナム人3兄弟が牛耳る犯罪組織。相棒であるウィルソン刑事をスパイとして潜り込ませていたのだが、ある日、その正体を見破られてしまい……というのがあらすじ。

香港ノワールと香港ニューウェーブを内包し、それをカンフー映画として、香港映画史の流れの中にまとめあげた大傑作『SPL』の監督/主演コンビが再びタッグを組み、さらにその『SPL』の主人公であったマー刑事を使った姉妹編的な作品。番外編でもスピンオフでもいいのだが、ハッキリ言えばパラレルワールドの世界であろう。ただ、なぜパラレルワールドであるかを説明するとそれがそのまま『SPL』のネタバレにもなってしまうからまったくもって困ったもんである。Amazonでは若き日のマー刑事でしょうなんてレビューしてた人もいたが、う、うーん、それもネタバ……げふん、げふん。

グリコの濃厚おつまみスナックか!というほど、香港映画の魅力を詰め込んだ『SPL』に比べ、その食感は軽く、いくらでも食べれてしまうくらいの超痛快作であり、90分以内に潜入捜査のサスペンス、バイオレンス、カーチェイスパルクール、銃撃戦、そして怒涛のカンフーがパッケージングされてるわけで、これ以上映画に何を望む?と思わず言いたくなってしまうほどサービス精神も旺盛。少し敷居が高めの和食屋さんをやっていた大将が新しく店を出して、そこへ行ってみたら、恐ろしく一品一品がうまい大衆居酒屋だったというような感じ。恐らくウィルソン・イップが今作で見せたかったのは、作家性とはほど遠い、大衆的な職人作品であったのだろう。ジョニー・トーや『インファナル・アフェア』シリーズとは違うベクトルを狙いに狙っているのがよく分かる。

その職人的な分かってる映画にするためにドニーさんも援護射撃。彼のお家芸でもあるカンフーアクションは本人がコレオグラフしているだけあって、今までに見たことのない動きを見せてくれる。手数の多さやソバットの切れ味はもちろんのこと、今回はアクロバティックな関節技をメインに縦横無尽に動き回る。カメラもそれにあわせてグリングリン動き回るわけだが、これらが合致した時にえも言われぬカタルシスが生まれるのだ。

作品はいわゆる、潜入捜査モノから、法で裁けないならオレが裁く的な復讐劇になっていくわけだが、プロットはしっかり土台が作られており、アクションとは関係なく作品自体がおもしろかった。ドラマを重視するあまりテンポが急落する個所も見られたが、そのバランスの悪さも含めて、香港映画のショーケースを堪能させてもらった。

というわけで、ドニー・イェン作品としても、ウィルソン・イップの作品としてもおすすめ。あまり気張らず肩の力を抜いて観れるのも強みだ、あういぇ。

導火線 FLASH POINT [DVD]

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