というか、原作のオチすごくね?『うさぎドロップ』

うさぎドロップ』鑑賞。

松ケンと芦田愛菜という今をときめく旬のスターを使ったハートフルな作品だが、なんと監督は『弾丸ランナー』や『アンラッキー・モンキー』など不条理な世界でシュールなやりとりを繰り広げる作品を得意とするSABU監督。超個性派としてフランスでの評価も高い彼が「6歳の叔母を育てることになってしまった男」の話をどのように撮り上げるのか?というのに興味があって観にいった。例えるならば、プログレバンドが急に「世界に一つだけの花」を作ったみたいな感じだろうか。

祖父に6歳になる隠し子がいたというのが死んだことにより発覚し、引き取り手がいなかったために、松ケン演じるダイキチがその「叔母」にあたる娘を育てて行く。当然ながら、山あり谷ありで、子供は言うこと聞かないわ、周囲には猛反発されるわ、急に子育てすることになったから仕事は手に付かなくなるわ、上司には差別的な嫌がらせをされ、あげくの果てに鬱になりかけるわ、部署を変えたことで給料が安くなり、育児をする金銭的な余裕がなくなるわ、慣れない家事に悪戦苦闘するわ、もう大変!!!ところがそれを補って余ある魅力が子育てにはあった――――などという障害は一切登場しない。

基本的にはファンタジーとしての子育てが描かれていき、子供は無茶苦茶良い子で最初から懐いているし、子供の世話に集中するために部署を変えてもらってもすんなり馴染み、子供のために私の人生は台なしになったのよ!とか子供なんて大嫌い!いう家族たちも最終的にその娘にメロメロになるなど、まず良い人しか出て来ない。これみよがしなイヤーなキャラクターが出て来るが、そこは妙にステレオタイプで「悪」として登場する。とにかく家事の大変さ、仕事と子育て、家事の両立の苦労などはなんのその、やっぱり子育てって楽しいし、子供は最高だ!という部分に焦点が当てられ、子育ての理想型がこの映画の中に込められているという感じである。

このような純化された世界しか映らない作品というのはある種の人にとっては陶酔感があり、それ故に熱狂的なファンを生むか、こんなのありえねーよと猛反発を喰らうかのどちらかに二分するであろう。『耳をすませば』や『コクリコ坂から』を嫌悪しているぼくはもちろん後者である。

ところがだ、この作品、監督/原作者がこの手のものが嫌いなのか、ちゃんとその辺を考慮しており、その手の人間にも受け入れやすい土壌を作り込んでから撮影に臨んでいるのが作品を観ているとよくわかるのである。

まず、あれだけ心を開かなかった芦田愛菜ちゃんが出だし一発で松ケンになついてしまうという問題点だが、ここは冒頭で「死んだおじいちゃんに気持ちが悪いほど顔が似ている」という設定でクリアしている。変わった部署の人たちに協力してもらって、子供を○○するというシークエンスもガテン系のチンピラに設定したことで、純粋で素直な熱い男なら、こういうことはすぐやるだろうという妙な説得力を持たせてくれるし、子供を捨てたはずの母親への怒りも、とある一言とワンカットで冷却させるなど、とにかく細かい部分での「言い訳」が妙にうまいのだ。

そして、最大の問題点である「異常なほどしっかりした子供」で基本的に手がかからないというところも芦田愛菜ちゃんをキャスティングすることによりクリアした。

だって、芦田愛菜ちゃんはいい子に決まってるんだもん!!

ぶっちゃけ芦田愛菜ちゃんの魅力が存分に引き出されてるわけではないが、それでも映像からにじみ出るかわいさにはやはり勝てず……

もう後半は松ケンと自分を置き換えて楽しんでいた。

SABU監督は雇われ監督として普通に仕上げるかと思ったら、至るところに彼の刻印が押されており、もはやここまでいくと原作に対する映画テロリストレベルだと言える。走るシーンを妙に象徴的に撮ったり、時間軸をコロコロ入れ替えた編集やコミック的な決め絵とカット割の間はもはやSABU監督のリズムで、特に出だし一発のカットがSABU監督がラストでよくやるような雰囲気を持っていて、それで安心しきってしまった。

原作に無かった部分*1として、妄想して雑誌の中の女とダンスを踊るシークエンスを付け加えたのだが、これはSABU監督の十八番演出であり、無理矢理これを組み込んで行くあたりも映画を観ながらニヤついてしまった。あれに違和感を覚えた方はSABU監督の他の作品を見てみると納得するであろう。

というわけで、普通だったら明らかにスルーしていたはずの作品だが、芦田愛菜ちゃんとSABU監督のおかげでかなり楽しむことが出来たというのが正直な感想だ。というか、主役以外は全体的にキャスティングは変化球であり、その辺もSABU監督のこだわりを感じた。SABU監督のファンと芦田愛菜ちゃんのファン、そして松ケンのファンのみおすすめしたい、あういぇ。



――――あ、そうそう。ウィキペディアで原作のことを調べたら、度級のネタバレが記述してあり、そのオチに驚いてしまった。これから原作を読もうとしている方は絶対に見ない方がいいわけだが、その終わり方でホントに良いのか?明らかに問題というか、反則というか、絶対にダメだろ……事故的にネタバレに遭遇してしまったわけだが、それでもって映画のラストが一気に台なしになり、完全に冷めてしまった。というか、思わず「気持ちわるっ!」って声に出してしまった。恐らく第一部で終わってたはずなんだろう。人気があるから続けなければいけないということに対して、作者が作品を自らの手で殺してしまったのかなぁ。その辺ちょっと聞いてみたい気がした。そもそも、売れない漫画家がお手伝いさんとしてはいったところのじーちゃんとなにがしってのも……しかも映画に出て来た人かなり若くなかったか?

*1:ウィキりました